フィレンツェの子供達。 n.2
前回は、ルネッサンス時代に創立した捨て子養育院で、子供達がどのように引き取られ育っていったかなどをご案内しました。
今回は、いまのフィレンツェの子供達に焦点を当ててみたいと思います。フィレンツェという歴史ある街で、その特徴を活かし、市や美術館がどのように取り組み、子供達が普段からアートに触れられるようにしているのでしょう。
フィレンツェの大人達にもアートを!
フィレンツェ市立美術館(Musei Civici Fiorentini)には、市庁舎でもあるヴェッキオ宮殿を筆頭に、市内に約10箇所の美術館があります。これらの美術館を使って子供達にアートを楽しんでもらうプログラムが毎年実施されています。
フィレンツェに住んでいながらウフィッツィ美術館に足を踏み入れたことのない人もいます。なんてもったいない!
そこで、楽しく面白く参加してもらおうと、イベントを企画し実施しているのが、MUS.Eという機関で、子供向けのプランだけでなく、大人も楽しめるツアーもあります。
トムハンクス主演で、ダンテのデスマスクを発端に謎を追う映画「インフェルノ」が上映された年には、ヴェッキオ宮殿もその舞台になったことから「インフェルノ」ツアーが実施されました。
わたしも参加しましたが、隠し窓があったり、普段は開かずの間の扉の奥や、屋根裏に入れたりと、とても面白かったです。
最近では、去年から修復しているブラッカッチ礼拝堂を、修復の足場から見学できます。
修復をしているのは、以前に紹介した貴石修復所。見学を可能とするのは、MUS.Eと、フィレンツェのそれぞれの各所が手を取り合い、フィレンツェ住人のみならず、世界から訪れる訪問者へ参加してもらう試みです。
各々が好き勝手しそうなイメージのあるイタリアで、連携を取り合い、このような企画が生まれるのが、すごいなぁと、関心します。
フィレンツェの子供達にもアートを!
ヴェッキオ宮殿
2023年1月の企画を例にとると、12歳以下の子供達は、無料で市立美術館を見学できます。毎年1月にフィレンツェで開催される子供服のファッションショー『ピッティビンボ』のワークショップとして企画された、今回初の試みです。
MUS.Eのスタッフが、フレスコ画の技法を教えるレッスンもあります。
ヴェッキオ宮殿を建て替えたジョルジョ・ヴァザーリや、メディチ家の女主人エレオノラ・ディ・トレドが館内を案内する企画もあり、こちらは、子供だけでなく、大人にも人気で、年間を通して実施しています。
もうひとつ、面白い企画に、美術館でのお誕生日会があります。
4歳から12歳までの子供達は、友達を20人まで招待することができ、ヴェッキオ宮殿でお誕生日会を開く時は「帆をつけた亀さんの物語」や「街を作るために必要な花々」など、フィレンツェの歴史に関係のあるテーマを選んでお祝いします。
「帆をつけた亀さんの物語」は、『ゆっくり着実に歩を進める』の意味を込めたメディチ家当主コジモ1世のエンブレムから、「街を作るために必要な花々」は、アイリスの花がシンボルのフィレンツェの街の歴史から、それぞれテーマが決められています。
フィレンツェ県住民は、子供ひとり5ユーロ。大人は4人まで無料、5名から入館料+5ユーロがかかります。フィレンツェ県以外の場合は、子供はひとり10ユーロ、大人は5名からは入館料+10ユーロかかります。土曜日の午後3時から5時30分まで使うことができます。
お財布から出せる金額で、子供の誕生会を宮殿でお祝いでき、子供達だけでなく、大人達もアートを身近に感じることのできる企画です。
ガリレオ博物館
フィレンツェには、ガリレオ博物館もあり、こちらも楽しい企画が目白押しです。ガリレオ・ガリレイにちなみ、科学をベースに遊びます。
例えば、ジェラートがどうして出来上がるのか。科学の視点から、説明しています。
動画の最初に出てくる石積みやピラミッド風の建物は氷の保存室です。冬季に雪を建物に入れておき氷を作ります。夏の冷たいジェラートは、冷蔵庫のない時代に、相当な贅沢品だったことでしょう。
今年の冬季期間は、毎週日曜日の10時30分に博物館前に集合!
近くのカフェテリアで参加者全員が朝食をとったら、そのときのテーマに沿い実験やモノづくりを体験します。
講師となるのは、その分野の専門家や職人で、マーブル紙、金箔師、1800年代の現像方法、レンズの仕組みを知る、など12回に分けて行われます。
企画名は「ティファニーで朝食を」をもじり「美術館で朝食を」。楽しそうなので、わたしも参加する予定です。
ガリレオ博物館は課外授業としても利用されており、参加する子供達も、学校で勉強するときより、生き生きしているようです。どんな様子かは、こちらのガリレオ博物館の動画をご覧ください。
子供達が作り販売する協同組合
フィレンツェには、障害を持つ子供達を支援する協同組合がいくつかあります。「メイド・イン・シパリオ(MADE IN SIPARIO)」。そして「イ・ラガッツィ・ディ・シパリオ(I Ragazzi di Sipario )」も、それらのひとつです。
前者は、アーティストの指導のもと、絵を描き、それをランチョンマット、マグカップ、キーホルダー、布製バック等に商品化し、販売しています。
後者は、調理からウエイターまで、スタッフは全員、障害を持つ子供達が担当しています。小さな路地の、小劇場のカフェテリアが彼らの職場です。
メイド・イン・シパリオで作られたランチョンマットが、このお店で使われています。
結構なボリュームなので、パスタ類とお肉やお魚料理を選べるランチメニューもありますが、パスタだけで十分です。
わたしが訪れた時は、近所のビジネスマン、学生、常連の年配の方々が食べにきていました。
場所がわかりづらいので、興味のある方は、グーグルで調べることをお勧めします。大聖堂からは、徒歩で10分ほどです。
Il Bistrot dei Ragazzi di Sipario
住所 Spazio Alfieri via dell’Ulivo 6r, Firenze
email: info@iragazzidisipario.it
ランチ(月〜金)12時30分〜14時30分 8月休み
軽い夕食(月〜日)19時〜21時 7月8月休み
フィレンツェの、いまと、むかしが、繋がるところ。
捨て子養育院機関では、現在でも、孤児の養育や、障害のある子供を持つ生活が困難な母子家庭、養子縁組など、子供の人権を守る活動をしています。
敷地内には、機関のスタッフが一人つき、6人の子供達が共同で生活するアパートが何軒か建っています。写真の奥に見える、茶色の屋根の建物が、アパートです。
普通の家庭が預けられる保育施設や幼稚園も併設しており、総合的に子供達を育てる機関として活動しています。
フィレンツェで生まれた人間性を問うヒューマニズムは、フィレンツェの心の真髄であり、彼らの「人間を世界の中心にそえる」精神や気概を具現化しているように感じるのが、捨て子養育院です。
ルネッサンスが花開く華やかな文化のなかで、決して軽んじることのできない施設であり、教会や私邸ではなく、福祉設備に、一流の建築家に建設を依頼し、一流の芸術家に作品を製作させ、それを院内に飾り、院内で生活する人々が、その美しい作品を日常で眼にすることができる、その環境にも感嘆します。
いまでも、フィレンツェでは歴史が繋がっており、市や美術館が一緒になり取り組み、鑑賞するという言うよりは、子供がアートを楽しめる場所を提供しています。
障害を持つ子供達を支援する団体もあり、お医者さんがピエロに扮して病気の子達の気持ちを明るくしようと努める小児科病院など、フィレンツェを州都とするトスカーナ州は、イタリアのなかでも活動が盛んな州です。
今回は観光都市ではない、人間を中心としたフィレンツェをご案内したく、過去から現在に至るまでの、フィレンツェにおける子供達の環境をテーマにご案内しました。
フィレンツェを訪れることがありましたら、美しいモニュメントや作品を愛でながら、もうひとつのフィレンツェの顔を思い出して頂けると嬉しいです。
******
最後までお読みくださりありがとうございます。
そろそろやってきました!
次回はカーニバル!
をテーマにベニスからお届けします。