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お山のてっぺんにある、田舎の美しさ。 *Ruota ルオータ村 *
イタリアは8月1日から気もそぞろ。もとい。7月1日から気もそぞろ。
あといくつ寝ると夏休み。指折り数えて待ちに待った夏休みが真っ盛りのイタリアです。フィレンツェの中心街は、6月7月ほどではありませんが、それでも道を真っすぐに歩けないほどの混みようです。
かたやフィレンツェの市街では、人々は海へ山へと大陸移動し、朝も夜もしんと静まり返り、車の音の代わりに、風の音すら聞こえてきます。
今回は、日々そんな美しい静けさの中で過ごしている、小さな村へとご案内します。
夏休み時期でもありますし、久しぶりに「田舎の美しさ」シリーズです。
ロマネスク様式の教会
村の名前はルオータ(Ruota)。ルッカという城壁に囲まれた街から30kmほどの距離にあります。そんなに遠くはないけど、山道をくねくね上がった山のてっぺんを目指します。
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たまに中世時代のロマネスク様式の教会を求めて小旅行へ出かけます。ルオータ村には「サンバルトロメオ教会」という中世の教会が建立されているはずで、その教会に出会いに赴いたのです。
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パスタに敢えても美味しい、
セロリ・ファミリーの
フェンネルの葉が
野生に生い茂っています。
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オリーブ畑の一本道
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その先になにが見えるのか
ワクっとしていると、
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「アペ」が
ものすごい角度で
停まっていました。
3輪車アペは
街でも田舎でも
イタリアで大活躍。
こちらが「サンバルトロメオ教会」。思っていたより立派でした。文献や資料が残されていない教会が多いので、どんな姿で建っているのかは、見てからのお楽しみ。
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1260年にルッカの教区になったらしいですが、11世紀(1000年)には、すでにここに建っていた可能性が高いようです。
何度も改修と修復を繰り返したであろう痕跡が見られるファサード。 山の頂上に教会があることから、見張り台としても使われていたはずです。
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壁に嵌め込まれた石碑。3行目右から4行目左にかけて「M CCC VIIII」と彫られており、これはローマ数字で1309。この年に改修されたのでしょう。
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ロマネスク様式の教会には、このような渦巻きに似たシンボルが残されていることが多々あります。終わりのない渦巻き溝は永遠を表し、永遠は天国。神を表すシンボルとも捉えることができます。
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1000年代に建立されたとして、その時代からここに建ち続け、2000年も20年を過ぎた、わたしの目の前にあるのが奇跡に思えます。時間がぎゅっと凝縮されたこの石は、あらゆる歴史を見てきたことでしょう。
石が彫られているということは、誰かが彫ったのに間違いありません。背の高さほどの手の届くところにあるので、1000年の間にいろいろな人が溝に触れ、そこをわたしも触れると、まるで中世へタイムワープした心持ちになります。
悠久の時間と向かい合うような恍惚感が、ロマネスク様式の教会に魅せられる理由のひとつかもしれません。
ルオータ村
教会から繋がる一本道の先には、ルオータ村があります。どんな村なのでしょう。
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田舎の風景のひとつ。畑に干してある洗濯物。この日は天気が良かったので、90度の角度でピシっと干されているタオルは、乾いてもその形は崩れなそう。
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深い山の頂上に作られた村。壁に使われている石は山から切り出してきたものでしょう。漆喰で壁を塗らずに、このように石肌が剥き出しの建物がトスカーナ州では多くみられます。
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立派な門構えの建物。窓が小さめなのは、寒さから守るためかもしれません。
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アーチを通り抜けたところで「ワン!」と呼び止められたので、声の方向を探してみると、アーチの上から見つめられていました。毎日ここで道行く人を眺めているのでしょう。
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汚れちゃうのもお構いなしで、湿った土の上にゴロンして、お腹からモフモフ光線を出しているニャンコにも遭遇。犬も猫も村の同居人。
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それにしても、白昼夢のように、人間には出会えない。静かな建物の合間から聞こえてくる、虫の鳴き声、鳥の飛び交う羽音、風にゆれる森の葉音が、日中の村を包んでいました。
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1920年から続いているらしい、村の中心にあるバール(カフェ)。田舎のバールでは、コーヒーを飲むだけでなく、生活に必要な日用品や、缶類乾麺等の保存食品も販売する、何でも屋。イタリアのコンビニです。
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ランチ時間はそれぞれの家へ戻っているけど、それ以外の時間は、バールは社交場ともなり、住人がなんとなく集まり、おしゃべりを楽しむ場。
イタリアのお年寄りが元気なのは、バールの存在が大きいです。ここにくれば、友達がいて、マンマが学校帰りの子供達におやつを食べさせに立ち寄り、息子が仕事の合間にコーヒーを飲みにくる。世代の垣根を超えた、地元の大切なコミュニティの場です。
村の名前になっている「ルオータ」は車輪の意味で、バールの壁にも記されています。
虫食いのような白の漆喰で塗られた不思議な建物に、一枚の石碑が嵌め込まれているの見つけました。
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いつの時代のものなのか、これが村名になっている石碑でしょう。
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十字架で記されているサンバルトロメオ教会から、一本道に村が構成されています。
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山の頂上にあるルオータ村は、寒村だと思いきや、そんなイメージは一掃されます。
ルオータ文化協会
クリスマスのときには、幼子キリスト誕生の場面を、村人達が演じます。
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イースター前の土曜日には、キリストがゴルゴダの丘まで十字架を背負い、磔刑にあい、死後にマリア様の膝に抱かれるまでのストーリー「十字架の道(Via Crucis)」が実演されます。
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2023年4月1日(土)には、第7回が上演されました。
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どちらも、奥深い山を利用し、山のなかで行われます。キリスト教の2大イベントを見るために、はるばる訪れる人もいる、知る人ぞ知る、ルオータ村。
山の上にあるということは、下界より気温も低いので、避暑地として利用することもできます。海岸へ向かう主要道路からもアクセスが可能。
これらの条件を十分に活かし、ルオータ村では夏になると、週末の夜8時から村食堂が開店します。今年は、6月1回、7月5回、8月4回、計10回。
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週末に郊外で外食をするのが楽しみ、というイタリア人も多し。村食堂はレストランより価格が安く、田舎の雰囲気を楽しみながら食事も楽しめるので、週末は、ルオータ村に限らず、イタリア各地で即席村食堂が開店します。
週末に海や山へ遊びに出かけ、夕食を外で済ませたいときにも、帰路の途中で立ち寄り、サクっと食べて帰れる便利な村食堂。
人が食べにきてくれたら、村おこしにも繋がり、村の存在を宣伝するにも格好の機会です。
ピザ各種。マルゲリータ1枚が6ユーロ。前菜は、チーズとサラミの盛り合わせ、オリーブの実、ブルケッタで8ユーロ。揚げ物や食後のデザートはそれぞれ4ユーロ。村食堂ならではの価格設定。
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手書きの「新メニュー!」。スープ、ソーセージのピザ、焼き豚のピザ、焼き豚のスライスとパスタ生地を揚げたものとフォカッチャ、などが書かれています。この週は焼き豚を入手できたから、この品揃えなのでしょう。
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メニュー下に大きく書かれているTOMBOLAとは?
トンボラは、ビンゴに似たゲームで、1から90までの数字をランダムに読み上げ、横1列で、最初に数が2個、3個、4個、5個揃った人が、それぞれ賞品を貰えるゲームです。カード全部の数が最初に揃ったら『とんぼら!』。大勝利で一番大きな賞品をもらえます。
遊び開始時間は夜10時30分。大人の時間。
村食堂で腹一杯飲んで食べた村人、村に宿泊している外国人、トンボラを遊ぶためにやってきた住人、それぞれが手にゲームカードを持ち、夜更かしで遊ぶのでしょう。単純なゲームだから、言葉なんていりません。
2個揃えば「あんぼ!」、3個揃えば「てるの!」、4個揃えば「くあてるな!」5個揃えば「ちんくいな!」、全部揃えば「とんぼら!」。
星空の下のもと、山からの涼しい風を受けながら、大人たちが、読み上げられる数字に一喜一憂し、和気あいあいと遊んでいる風景が目にみえるようです。笑顔のあるコミュニティって、いいですね。
イベントも村食堂も、ルオータ村の文化協会が中心となっています。忙しそうですが、やりがいを持って楽しんでいて、自分たちの村を愛する気持ちが感じ取れます。
ルッカの周辺には、ロマネスク様式の教会が多く残されています。教会に出会うたびに、ルオータのような村や、飲料できる澄んだ川、美しい風景など、想像していなかったことに遭遇できるのも、楽しみのひとつです。
さて、次回はどこへいきましょう。
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最後までお読みくださりまして
ありがとうございます。
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🌿 本編で案内したルッカについても投稿しています。
🌿 マガジンに「田舎の美しさ」シリーズをまとめています。
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