塑性変形と転位の研究に身を捧げた学生時代の話 -5-
本記事は2022年9月に書いた「学生時代の研究活動」の話の再整理です。
学生時代はとにかく研究に明け暮れた時期でした。実際は塾講師のアルバイトと両立しながらでしたが、キツい時期を乗り越えた感覚があります。ここでの経験が今の仕事のキッカケにもなりました。
私の研究の経歴はかなり特殊です。木更津高専(通常課程と専攻科課程)と筑波大学(大学院)、合わせて6年間の時間を研究活動に注ぎ込みました。
高専と大学院では研究テーマこそ異なりますが、取り組んだ研究の大筋のテーマとしては「塑性変形を数値解析技術を利用して詳細に理解すること」でした。
今回は学生時代の研究活動の軌跡に関して、専門知識も交えながら、数回に分けて書いていくことにします。
前回は大学院で取り組んだ研究について、基本的な概要や研究目的の話を中心に書かせて頂きました。
塑性変形の基礎とも言える「転位」についての研究でした。テーマは「格子欠陥(ナノスケール空隙)が微細粒金属に及ぼす力学的影響に関する分子動力学法による評価」です。
前回は材料からの視点が主でしたが、今回は研究活動を進める上でのツールとして登場する「分子動力学法」に関する内容を軸に、研究の話を書くことにします。
分子動力学法の概要
分子動力学法とは、原子単位で構成されるモデルにおいて、各原子(質点)の運動を運動方程式を介して求める計算手法です。
ここで言う原子間ポテンシャルは、基本的には既往で実験的に求められたものを代用します。そこから各原子の運動方程式に持ち込んで、各時刻で原子単位の解を求めます。
運動方程式から直接的に求まるのは加速度であり、それを1階微分したものが速度、2階微分したものが変位であることを利用しています。
計算手法としては、連続体力学をベースとした「有限要素法」とは異なります。原子群を扱うため、モデルの規模はナノメートルの世界観になります。
前回でもナノスケール空隙(格子欠陥)を導入するという話をしました。対象は微細粒金属であり、微視的(ミクロ)な物理現象を見る必要がありましたので「分子動力学法」との相性は良い方でした。
転位活動を観察すること
本当にナノスケール空隙の周りで転位の運動が活発化するのか。そして、微細粒金属レベルの結晶粒の中にナノスケール空隙を設けることで、実際に破壊形態(破壊のプロセス)が変わるのか。
転位の動作を見るのは、実際に分子動力学法による計算結果を踏まえて、見たい領域を切り取りながら結果を見極める必要がありました。
転位の形状を原子の集合体として観察する。転位が実際にどれほど発生して、どのような動きをするのかを観察できることが、分子動力学法の利点と言えます。
詳しくはまた次回に書きますが、分子動力学法から物理現象の法則を知ることで、これまでの常識が逆転するような結果を目の当たりにしてきました。振り返れば、驚きを繰り返しながらの研究活動でした。
分子動力学法の計算環境構築
分子動力学法の計算は、基本的に有限要素法に比べて計算容量が大きい傾向にあるため、複数のコンピューターを連携して計算を進める「並列計算」を採用することが多いです。
並列計算はニュースでも取り上げられるスーパーコンピューター(スパコン)からスタートした数値計算技術です。昨今ではスパコンに限らずとも適用できるようになりました。
当時の自分の所属研究室でも、複数の計算専用のコンピューターを購入して、常時利用していました。この辺は環境構築から関与していたこともあり、知識で就職後も役に立ちました。
並列計算の代表的手法としては、主に下記の2種類があります。同研究室ではMPPを採用していました。
分子動力学法は計算規模が大きいので、後者を採用することが多いです。数台のコンピューターを併用して、数日レベルの計算を実施していました。
おわりに
今回は大学院での研究活動の話として、主に計算手法である「分子動力学法」を軸として書きました。
次回は研究を進めてきて、最終的にどのような形に落ち着いたのか。その辺の話を書きたいと思います。
次回でこのシリーズも最終回になります。ぜひ最後まで宜しくお願いします。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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