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液体と気体の流動性を考察する流体力学の話 -2-

液体と気体をひとつの「連続体」と見做して、力学的な観点から議論する。流体力学の意味するところです。

流体力学は何かと非線形問題を扱う分野です。守備範囲は水理学や航空力学など裾野が広いです。

今回の連載(投稿)では、流体力学において特有の物理的挙動の表現について、数学の知識を交えてながら整理していきます。

前回は流体力学における支配方程式と代表的な運動方程式で知られる「ナビエ・ストークス方程式」について紹介しました。

今回は流体の運動の記述方法を見ていきます。流体の運動は流体空間の内部すべての速度を、時刻歴として与えることで規定します。流体の「速度場」と言いますが、何を独立変数にするか次第で話は変わります。


流体の運動の記述方法

流体の運動の一般的な記述方法は、流体を無数の微小部分に分けて、各々を時間的に追跡します。これを「ラグランジュ式記述」と言います。

本記述においては、ある時刻の1点の近傍を構成する流体部分は、時刻に関係なく不変であると解釈します。つまり、ある時刻における流体粒子(流体の微小部分の呼称)が構成する速度場は、初期の位置座標と時刻を独立変数とします。

一方で、ある時刻における流体粒子が構成する速度場について、当該時刻の位置座標と時刻を独立変数として扱う場合もあります。これを「オイラー式記述」と言います。

両者の記述における時間微分は形式として異なります。ラグランジュ式記述に対する時間微分とは、物理量(ベクトル)をに総和規約を用いて、次のように表現されます。

$${\frac{DA_i}{Dt}=\frac{\partial A_i}{\partial t}+(\bm{u}{\cdot}{\textrm{grad}{\,}A_i})}$$

すなわち、ラグランジュ式記述とオイラー式記述の時間微分上の関係性は、次の通りです。

$${\frac{D}{Dt}=\frac{\partial }{\partial t}+(\bm{u}{\cdot}{\textrm{grad}})}$$

一般的な直交座標系に対してラグランジュ微分を考えるとき、最も重要な要素として流体粒子の加速度が挙げられます。

$${\frac{D{\bm{u}}}{Dt}=\frac{\partial \bm{u}}{\partial t}+\textrm{grad}(\frac{1}{2}{\lvert\bm{u}\rvert}^2)-\bm{u}\times{\textrm{rot}}{\,}{\bm{u}}}$$

このように、ラグランジュ式記述の時間微分はオイラー式記述の時間微分に対して勾配(処理)が絡んだ項を追加します。

流体運動の軌跡の表現

流体の運動を追跡する場面があります。主な追跡方法として3種類あります。

ひとつは「流線」と呼ばれるものです。流体の流れの軌跡を1本の曲線で代表させます。このとき、速度ベクトルは流線(曲線)に対する接線です。

流線は任意の時刻における速度場を与えます(オイラー式記述)。流線の形は時間に応じて変化しますが、時間による影響が無視できる「定常流」では流線の形は一定です。

オイラー式記述に基づく流線に対して、任意の流体粒子が時間経過に従い移動する軌跡を規定する「流跡線」があります(ラグランジュ式記述)。流線は時間経過に対して変化しますが、流線の部分的な要素(線要素)として見ると、流跡線は各時刻におけるこの線要素を連ねたものと考えます。

最後のひとつは「流脈線」です。これは任意の固定位置を時々刻々に通過する通過する全ての流体粒子が、任意の時刻に到達した点の集合を表します。

3種類の曲線の中で流脈線は実験的に作り出すことが比較的に容易です。ひとつの流体粒子の追跡であるためです。定常流では流線と一致します。

流体の回転を表す渦度と循環

流体の流れ(軌道)において、並進方向(伸縮)と回転の2通りを考えます。中でも回転の様子を表現した量(強度)のことを「渦度」と言います。

$${\bm{w}=\textrm{rot}{\,}\bm{u}}$$

このとき、渦度(ベクトル)を流線の要領で繋げた曲線を「渦線」と言います。渦度が有値であるならば、流体の微小部分は渦度(ベクトル)に平行な軸上で剛体回転します。

ひとつの閉曲線上で各点を通る渦線で形成される曲面を「渦管」と言います。先ほどの流管と意味が似ています。

流体の速度(ベクトル)をひとつの閉曲線に対して積算することがあります。この積算量を「循環」と言います。

$${{\Gamma}_c=\oint_c \bm{u}{\cdot}\bm{ds}}$$

すなわち、対象となる閉曲線における渦の強度を意味します。ここで、渦管を通る範囲の閉曲線であれば、循環は同値になります。

また、循環の計算方法はストークスの定理を用いることにより、線積分から面積分に変換可能です。

$${\Gamma=\oint_c \bm{u}{\cdot}\bm{ds}=\int_S \bm{w}{\cdot}\bm{n}{\,}dS}$$

この値は渦管の強度でもあります。渦管を無限小の細さ(断面積)に置き換えた状態を「渦糸」と言います。この場合の断面積と渦度ベクトルの大きさを積算した形を渦糸の強度と言います。

最後に、循環が流れに沿って時間変化しないこと示した「ケルビンの循環定理」があります。下記の物理的制約を前提としています。

  • 外力がポテンシャルエネルギーで書けること

  • 流体の密度が圧力のみの関数であること

  • 流体の粘性的影響が無いこと

渦についてまとめると、流体内部で渦度が有値であるならば、流体には回転の現象が存在して、自ずと渦管が存在するものと考えます。

おわりに

今回は流体の運動について、特に流線などの流体の運動の追跡方法、回転の影響度合を表す渦度について示しました。

流体に生じる力(面積力や体積力)については、過去に記事にしていますので、そちらに説明は任せることにします。

次回は流体の諸特性について、特に圧縮性や粘性などを取り上げます。これらの性質次第で物理的な説明の難易度が違います。

すなわち、基礎方程式である「ナビエ・ストークス方程式」でどこまでを考慮するかの違いです。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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