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転位から塑性理論を理解すること -4-
多結晶構造を前提とした金属材料の塑性変形(結晶塑性)に必要不可欠な存在と言える「転位」について。いわゆる「線欠陥」に分類されますが、原子空孔や不純物原子のように実体的な欠陥ではなく、原子配列の局所的な乱れとして扱われます。
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今回は「転位」について、物理現象(変形問題)と関連付けながら、どのような振る舞いがあるのかを見ていければと思います。
前回は転位を線欠陥として幾何学的に捉えて、そこから転位の運動と力学を考えてみました。
今回は前回に登場したピーチ・ケーラーの式を用いて、転位同士に生じる力を見てみます。単独状態から複数に拡張した場合の話が主です。
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転位同士に働く力
直線状態のらせん転位が2本存在する場合に、2通りの位置関係の場合について、転位に対して働く力を計算します。応力場については、前回と同様に等方性の線形弾性論に基づきます。
ピーチ・ケーラーの式に基づいて、転位が及ぼす力を計算します。復習になりますが、応力テンソルとバーガースベクトル(b)の内積を使います。
$${\bm{A}=\bm{\sigma}{\cdot}\bm{b}, \bm{f}=\bm{A}{\times}\bm{t}}$$
前回のテンソル表記に倣うと、次の通りです。
$${f_n=\varepsilon_{jmn}t_{m}A_{j} , A_j=\sigma_{ij}b_i}$$
これらを用いて、一方の転位に発生する力をもう一方の応力場に準じて計算します。
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今回はバーガースベクトルが座標軸の方向に一致するため、計算過程は比較的に容易です。ただし、刃状転位は線形弾性論の計算自体が複雑であり、今回は省略しています。
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転位の巨視的な力学挙動
転位を単体で考えた時に、そこから塑性変形または破壊に至るまでを想像することは難しいです。基本的に複数の転位による相互作用を考えます。
実際に転位を可視化する方法は存在しており、シリコン単結晶中に存在する転位の明視野像(例)を示します。こちらは、転位線の近傍を電子線を介して撮影しています。
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転位は力を加えると移動する訳ですが、その過程で転位同士が反発などの相互作用を起こします。複数の転位は自由に動き続けながらも、次第に転位同士で動きを阻め合うようになります。
転位による応力場(数式)を見ると、距離(位置関係)に相当する変数が分母に来るので、力は次第に増加方向になると思われます。これは過去に紹介した「転位の芯」の話に繋がります。
これらの因果関係が塑性変形から破壊に向かうひとつの鍵になります。ある程度の範囲内では「転位強化」という形で活用できそうですが、次第に脆性的な破壊挙動に移行します。
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おわりに
今回は等方弾性論を基本として、転位に働く力(力学)を複数の転位が存在する場合について拡張してみました。
複数の転位同士が発生した時に、今度は増殖や堆積などの物理的な現象に繋がる訳ですが、具体的な流れを次回で示したいです(前回予告しましたが、今回は取り止めました)。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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