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転位から塑性理論を理解すること -5-
多結晶構造を前提とした金属材料の塑性変形(結晶塑性)に必要不可欠な存在と言える「転位」について。いわゆる「線欠陥」に分類されますが、原子空孔や不純物原子のように実体的な欠陥ではなく、原子配列の局所的な乱れとして扱われます。
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今回は「転位」について、物理現象(変形問題)と関連付けながら、どのような振る舞いがあるのかを見ていければと思います。
前回は既往のピーチ・ケーラーの式を用いて、転位同士に生じる力を確認しました(主にらせん転位を扱いました)。
今回は転位の増殖や運動の停止(堆積)など、転位にまつわる物理現象の話を進めていきます。
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転位の増殖機構
塑性変形を開始してから、転位密度は次第に増加することが判明しています。複数の転位による動力学的な相互関係を見ていくことが大事です。
外部からせん断応力を加えることで、すべり面上にある転位は部分的に運動しようとします。両端にある節(A)と節(B)は転位運動のピン止めの役割を果たし、転位は弧を描くように運動します。
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転位に働く力の方向は転位線に対して垂直になります。また、力の大きさはせん断応力(外力)とバーガースベクトルの大きさに比例します。これが転位の弧の箇所における線張力(合力)と釣り合うことで、転位は安定状態になります。
上記(C)までは転位の両節で張り出し、巻きの方向が対であるらせん転位同士が消滅します。その後は独立した転位のループを形成します。
この過程を繰り返すことで、転位の多重ループが作られます。この流れを「フランク・リードの増殖機構」と言います。また、両節の間にある線分は転位の増殖の起点に相当しますが、これを「フランク・リード源」と言います。
フランク・リードの増殖機構を働かせるための最小のせん断応力は、次の通りです。
$${\tau_{FR}=\frac{\mu{b}}{d}}$$
ここで、定数(d)はフランク・リード源を表した線分の長さです。せん断応力(外力)がこの値を超えると、転位は円弧の状態における力の釣り合いが崩れるため、長距離運動を引き起こします。
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転位運動の阻害と堆積
フランク・リードの増殖機構を介して増殖された転位は、転位同士の抵抗や打ち消し合いを起こしながら、外部応力を介して運動します。
転位の運動範囲のひとつとして、結晶内部が挙げられます。つまり、結晶同士の境目に相当する「結晶粒界」が障壁となるため、基本的に転位は結晶粒界で停止(堆積)します。
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同一のすべり面上において、発生する転位群は次々と後続に堆積します。これらの転位群は同じバーガースベクトルを持つので、転位同士に反発力が働きます。
その先頭にある転位に働く力(応力集中)の大きさは、堆積する転位の本数、せん断応力(外力)、バーガースベクトルの大きさに比例します。
$${f_0=n\tau{b}}$$
転位の運動が隣接する結晶粒に伝播する瞬間があります。結晶粒界近傍の応力集中(大きさ)が臨界値に達した場合です。材料で言うところの「降伏」に関わる重要な事象です。
一般的に、材料の降伏応力と平均結晶粒径(d)の間には、下記の「ホール・ペッチの式」が経験的に成り立つことが知られています。
$${\sigma_y=\sigma_0+\frac{k}{\sqrt{d}}}$$
右辺(第1項)は摩擦応力、第2項の定数(k)は結晶粒界のすべりの抵抗を表す物性値です。
材料の結晶粒径が小さいほど、結晶粒界の全域の面積が大きくなるため、降伏が困難になります。これはホール・ペッチの式の意味と整合します。
材料の強化機構はいくつかありますが、上記は「結晶粒微細化強化」と呼ばれています。
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おわりに
今回は転位に関する物理現象(代表例)として、転位の増殖機構と転位運動の停止ならびに堆積について見ていきました。
転位の増殖と堆積については、材料の巨視的な物理現象の説明に繋がるところが多いです。材料の降伏は転位運動と密に関わる物理事象です。
これまでは単結晶を対象に話を進めましたが、多結晶構造を考えると、各結晶には固有の「方位」が存在します。そこを考慮した場合の一般的な物理現象について、次回以降で見ていきます。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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