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転位から塑性理論を理解すること -3-
多結晶構造を前提とした金属材料の塑性変形(結晶塑性)に必要不可欠な存在と言える「転位」について。いわゆる「線欠陥」に分類されますが、原子空孔や不純物原子のように実体的な欠陥ではなく、原子配列の局所的な乱れとして扱われます。
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今回は「転位」について、物理現象(変形問題)と関連付けながら、どのような振る舞いがあるのかを見ていければと思います。
前回は転位に関する弾性論の話を進めました。主にらせん転位について、等方性の弾性変形の数式展開を見ていきました。
今回は転位に働く力(力学)の話を進めます。転位は実体の無いものではありますが、外力を経由して一定の力学的な作用を生じるものとして、理解を進めて頂ければと思います。
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独立した転位に働く力
すべり面上で単独の転位が存在する時に、部分的に一定量の動きが生じた場合を考えます。
単位長さ当たりの転位に働く力(力学)をテンソルとして捉えるとき、ピーチ・ケーラーの式として表現できます。
$${f_n=\varepsilon_{jmn}t_{m}A_{j} , A_j=\sigma_{ij}b_i}$$
ピーチ・ケーラーの式をベクトルで表すと、力はベクトル(A)と転位線の方向ベクトル(t)の外積になります。つまり、力は転位線に対して垂直な方向に作用することが分かります。
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ピーチ・ケーラーの式に従い、転位線とバーガースベクトルを絵に示す通りに規定したとき、刃状転位に働く力のベクトルは次の通りになります。
$${\bm{f}=(\sigma_{12}b, -\sigma_{11}b, 0)}$$
また、らせん転位の場合は転位線と同方向にバーガースベクトルを規定することになるため、力のベクトルは次の通りになります。
$${\bm{f}=(\sigma_{32}b, -\sigma_{31}b, 0)}$$
らせん転位の場合は転位線とバーガースベクトルが平行にあるため、すべり面は一意に決まらず、2つの力の成分(両方)が転位のすべり(運動)に寄与します。
一方で、刃状転位は転位線とバーガースベクトルが垂直であるため、すべり面は一意に決まります。すなわち、バーガースベクトルの方向(成分)のみがすべり(運動)に寄与します。
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自由表面や欠陥に対する転位の力学
転位の運動に関する例として、自由表面の近くにある転位を考えます。らせん転位の場合のエネルギーの評価は、数式的に次のように表されます。
$${E=\frac{\mu{b^2}}{4\pi}\ln(\frac{R}{r_0})}$$
このとき、計算に必要な積分範囲(R)が表面までの範囲内に限定されることから、表面に近づくほどエネルギーは減少する傾向が見て取れます。
つまり、転位と自由表面の間には引力型の相互作用があると言えます。また、転位は表面に近づくほど垂直になろうとします。
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引き続き、他の欠陥と転位に働く力(力学)を考えます。任意の球状領域(等方的なひずみを有すると仮定)を置いて、転位との相互作用を見ます。
球状体積(Ω)からエネルギーを計算します。
$${E=- \Omega\varepsilon\sigma_{kl}\delta_{kl}=- \Omega\varepsilon(\sigma_{11}+\sigma_{22}+\sigma_{33})}$$
ここで、応力は転位が周囲に作る応力場を指し、ひずみは欠陥(球状領域)の内部の物理量です。
前回の等方弾性論としての転位の応力場を引用しますと、らせん転位の場合は応力場(対角成分)が存在しないため、エネルギーもゼロになります(らせん転位との相互関係は生じない)。
一方で、刃状転位の場合は応力場(対角成分)が有値であり、エネルギーを持つことになります。
$${E=- \Omega\mu{b}\varepsilon\frac{(1+\nu)x_2}{\pi(1-\nu)(x_1^2+x_2^2)}}$$
刃状転位と欠陥の間で、引力型か反発型の分岐は各変数の符号次第です。なお、転位同士の相互作用についても、ピーチ・ケーラーの式を土台に解析可能です(今回は割愛します)。
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おわりに
今回は等方弾性論の続きとして、転位に働く力(力学)を考えました。転位を単独で扱うよりも、他の転位を含めた欠陥(群)の相互作用を考える方が重要ですので、そこにも言及をしました。
次回は転位の動力学を土台にして、塑性変形に直に関わる転位の堆積や増殖などの諸現象について見ていきます。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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