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流体力学の理想形態(完全流体)の物理を知ること -4-
流体力学で理想状態のひとつに見做される「完全流体」について。連続体と仮定した場合に、流体の接線応力(抵抗力)を無視したものとして、完全流体の定義が成されます。
流体圧力を2階のテンソルで表記した場合に、圧力のスカラー量(p)とクロネッカーのデルタ(行列的な対角成分を有値にする処理)と合わせて、次のように表現されます。
$${p_{ij}=-p\delta_{ij}}$$
今回の連載では、完全流体としての物理的な特性を中心に見ていきます。
前回は完全流体の一例として、水の波の物理を流体力学の基礎方程式などに適用してみました。
今回は前回の追加事例として、表面張力波や定在波など特殊な状況において生じる物理現象を見ていきたいと思います。
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表面張力波と重力波について
物理現象を考えるとき、短波(深水波)では表面張力の影響は無視できません。このとき、境界値問題はそのまま流用できますが、水面の境界条件は表面張力による圧力差を導入する必要があります。
圧力差は平均曲率に比例するものと考えます。平均曲率とは、表面張力における面の曲率の最大値と最小値(主曲率)の平均値です。曲面に働く表面張力は$${\gamma}$$で規定されます。
$${\delta{p}=\gamma(\frac{1}{R_1}+\frac{1}{R_2})}$$
水面上の境界条件は次のように表されます。この式が本章の出発点になります。
$${\eta=-\frac{1}{g}\frac{\partial \Phi}{\partial t}-\frac{1}{2g}|\textrm{grad}\Phi|^2-\frac{1}{\rho{g}}\delta{p}}$$
簡略化のために一定の深さの水における1次元の微小振幅波を考えます。これを上記を踏まえて整理すると、次のようになります。
$${\frac{\partial^2\Phi}{\partial t^2}+(g-\frac{\gamma}{\rho}\frac{\partial^2}{\partial x^2})\frac{\partial \Phi}{\partial y}=0}$$
上記に基づいて計算を進めます。
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ここから解のひとつである位相速度(分散関係)が次のように求められます。
$${c=\frac{\omega}{k}=\sqrt{(\frac{g}{k}+\frac{\gamma{k}}{\rho})\textrm{tanh}(kh)}}$$
長波(浅水波)の場合は、上記の双曲線関数の内部項は物理を踏まえて非常に小さいと考えます。つまり、表面張力は物理に関与しません。
$${c=\sqrt{gh}}$$
一方で、短波(深水波)は逆になりまして、上記にある双曲線関数は1に収束するものと考えます。つまり、表面張力は物理に関与します。
$${c=\sqrt{\frac{g}{k}+\frac{\gamma{k}}{\rho}}}$$
ここで、位相速度の最小値は下記(波数)の値において次のように求められます。
$${k=\sqrt{\frac{\rho{g}}{\gamma}}}$$ , $${c_{min}=(\frac{4\gamma{g}}{\rho})^{\frac{1}{4}}}$$
短波(深水波)でも波長が比較的に短い場合(波数が大きい場合)、位相速度は第2項から表面張力の影響度が増長します。これを「表面張力波」と言います。逆に波長が比較的に長い場合(波数が小さい場合)、第1項(重力)の影響度が増長します。これを「重力波」と言います。
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定在波について
位相速度の正負の両面を合わせた波動の形については、境界値問題の線形性を踏まえると、同様に解であると言えます。
$${\eta=\frac{A}{2}\bigl[\textrm{sin}(kx-\omega{t})+\textrm{sin}(kx+\omega{t})\bigl]=A\textrm{sin}kx\textrm{cos}{\omega}t}$$
速度ポテンシャルは次のように表されます。
$${\Phi=-\frac{Ac}{\textrm{sinh}(kh)}\textrm{cosh}[k(y+h)]\textrm{sin}kx\textrm{sin}{\omega}t}$$
つまり、水波の挙動としては振幅がゼロの「節」と最大振の「腹」を形成します。例えば、節の位置では水(点)の運動は横方向(x軸方向)になり、腹の位置では縦方向(y軸方向)になります。
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限定的な状況のひとつとして、水波の与えるための横幅をlとした場合に、下記のように固有振動数を規定できます。
$${\lambda=\frac{2l}{n}}$$ , $${\omega=\sqrt{\frac{n\pi{g}}{l}\textrm{tanh}(\frac{n\pi{h}}{l})}}$$
ここで、nは任意の整数です。
拡張的な問題として2次元の水波を考えます。定在波の解を次のように規定します。
$${\Phi(x,z,t)=\phi(x,z)\textrm{cos}{\omega}t}$$
ここで、波の形態を長波(浅水波)を仮定して、境界条件を示します。
$${\frac{\partial^2 \Phi}{\partial t^2}=c^2(\frac{\partial^2 \Phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 \Phi}{\partial z^2})}$$
上記の境界条件に冒頭で仮定した定在波の解を代入すると、次のよう表現できます。
$${\frac{\partial^2 \phi}{\partial x^2}+\frac{\partial^2 \phi}{\partial z^2}+(\frac{\omega}{c})^2\phi=0}$$
この形は「ヘルムホルツ方程式」として知られています。さらに領域を長方形型にすると、上記のように特殊解が現れます。
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おわりに
今回は水の波について、条件をさらに追加した際の問題(表面張力波や重力波など)を考えました。境界値問題の扱い方は前回と同じです。
次回以降は非圧縮性の完全流体に関する流れの物理を深掘りします。渦なしを前提とした「ポテンシャル流」を指します。音速に比べて低速な場合の流体にまで話を拡張します。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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