「ドミトリーともきんす」 高野文子

 『科学の本ってヒンヤリして気持ちがいい』
 巻かれた帯の裏表紙側に、作者による言葉があった。

 「ヒンヤリ」なんていう「感じ」で、原理原則を追究する科学の本を評している。
 科学について易しく優しく書かれても、まだわからないままに読むときに感じている気持ちはこれだと思った。
 なんだかわからないけど、触れると気持ちがいい。

 科学の人が書いた本をたまに読む。科学の素養は中学止まりだが、物事を構造的に理解したいという願望だけは持っている。
 整理整頓が好きなのだ。種々雑多な物事も、できるだけきれいに並べて置いておきたいのだけれど、そうしたいからといってできるかどうかはまた別の話。できないからこそ望むというのも人の常ではある。

 科学の本は叶わぬ願望が叶っている世界を垣間見せてくれる。
 本を開くとそこには、腑分けされ、整えられ、美しく順序立てられた世界の成り立ちが静置してある。
 こんな風に認識する世界とは、どんなものなのだろうか。読んで理解できるわけでもないだろうけどと、表面をなぞりながら考える。
 それは冴え冴えとして、輪郭があり、触れると冷たいような気がする。

 もうどうしても、感覚的感想を述べてしまう。仕方がない。輪郭が曖昧にぼやけた世界の住人は、恐る恐る手を伸ばし表面をなでるだけで精一杯なのだ。
 だけどこの世界とあの世界は地続きで、というか、同時にそこに存在している。
 この漫画は架空と科学をないまぜにして、科学者が書く本の世界を案内してくれる。科学も人の営みだ。理解できなくても読んでいると気持ちがいいから読む。それでいいのだなぁ。

 ところで、巻末の盆踊りの腑分け。最高です。

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