【欧州ひとり旅】4ユーロのココアでは
まさかこの街がカカオで有名だなんて、村のココア屋さんを訪れるまでは知るよしもありませんでした。いいえよく考えれば、カカオの香りは朝からずっと鼻をつき抜けてわたしの脳を包み込んでいたのでしょうけれど、昨日チョコレートを食べすぎたせいか、どこか慣れてしまっていたのかもしれません。
いずれにせよ、ココア屋さんを見つけることができてとても良かったと思います。マルケル湖や北海へと通ずる運河や草原なんかから、オランダという国の平べったさを垣間見ようとここを訪れたのに、どんより曇り空は、わずか数キロメートル先以降の景色を簡単にさえぎり、微かに見えるのは、そんな灰色の様相に同化せんとする羊や山羊など数匹。数十分の休憩をするには明らかに小さなコップに注がれた4ユーロのココアではありましたが、店員のお姉さんの気さくな笑顔は今日ここまでの天気とはまるで対照的で、上品な甘さとほろ苦さをあわせ持つぬるめのココアに、わたしの身体は溶けてゆくようでした。
さて、ココアを飲んだその瞬間、あれだけぎっしりに空を覆っていた雲がちょうど手に持っていたコップ底の円ほどの隙間を作り、そこから強い光がココア屋さんに差し込みました。こういうことを、わたしは簡単に「奇跡」と呼んでしまうのですが、旅というものは、きっとそういうものでしょう。
欧州ひとり旅日記より抜粋
in Zaanse schans, Netherlands Oct.2023