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【欧州ひとり旅】ウィーンのキス

 あの場所であのキスを見ただけで、たったその出来事ひとつだけで、「ああ、旅に出て良かった」わたしはそう思いました。
 ウィーンを起点とする1号線道路、セセッシオンのそば。ひと組のカップルがキスしているのを目撃したわたしは、そのカップルが立ち去った後も、しばらくその場に立ち尽くしていました。差し込む光が余韻を優しく照らし、口づけの瞬間の残像がアスファルトに投影されているような、そんな感覚に陥っていたのです。
 この1号線道路は、ここウィーンからオーストリア西部の街ザルツブルクを経て、ドイツのミュンヘンにまで至るそう。陸続きの欧州では、1本の道路が国を越えてどこまでも繋がっているということは、決して珍しいことではありません。もっと言えば、果てはユーラシア大陸の端まで繋がっていることと思います。島国に生まれ育ったわたしがその壮大さを想像し難いのはいうまでもありませんが、あのキスを見た瞬間のわたしなら、きっと容易いことだったでしょう。

 「ウィーンのキス」

そう称して、これからのわたしは、何度この時のことを友だち家族に話すでしょうか。出来うる限り、その時の情景や空気、気温に至るまでの一切を、うまく伝えることができるでしょうか。抽象的な物事を共有し共感を得るには、中身が具体的であるに越したことはないでしょう。だからわたしはいま、旅日記を書いています。

ありあの旅日記より抜粋

in Wien, Österreich Dec.2022
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