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【欧州ひとり旅】ウィーンという街

 ウィーンの街並みはわたしにはちょっと物足りないかも、なんて贅沢なことを思ってしまうくらいには、旧市街の整いようは明らかでした。綺麗で手入れの行き届いた歴史ある建物の数々。洋式は統一されていて、ほとんどが白色。なんだか、夢の世界にいるような心地。

 「物足りない」という言葉を使ったのには、少しだけわたしが持っている偏見が関係しているかもしれませんね。ヨーロッパの生活感ある風景といいますか、そんな感じの景色を表すのに、壁の落書きや道に落ちたタバコの吸い殻、色とりどりの家などを想像してしまっていたのかもしれません。

 さて、音楽の都ウィーンでは、その名の通り、街のあちこちから“音楽”が聴こえてきます。アコースティックギターを弾くお兄さんを通り過ぎたと思ったら、次はアルトサックスを吹くお婆さん。それぞれは決して互いを邪魔することなく、そして整然とした街の様相に溶け合っているようにみえて。やっぱり夢の世界にいるような心地。

 旧市街を歩いて数時間も経つと、あることに気が付きます。この旧市街全体が、ひとつのホールになっているということです。狭い路地の壁に、人々の奏でる音々が反響し、隅々まで行き渡っています。建物の白壁はまるで楽譜、五線譜が建物をこえてどこまでも続いています。その横を歩く私たちは、指揮者であり、観客でもあるでしょう。リズムよく歩みを刻むのも、時折目を瞑って音の響きを感じるのも。18世紀にこの地を治めたオーストリア大公妃マリア・テレジアに、わたしは謝らなければなりませんね。こんなに素敵な街、物足りないわけはありません。

ありあのひとり旅日記より抜粋

in Wien, Österreich Dec.2022
CONTAX Aria × CineStill 400D

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