3つの観点から、中古物件をリノベーションするということを考える
今回は、中古物件をリノベーションするということを、様々な角度から考えたいと思います。
古家を耐震補強と断熱工事をしつつリノベーションしていて、現場の見学会を開いた中で、ご参加いただいた方とお話しする中で、改めての気づきや今までの考えの明確化ができたことも踏まえ、必要としている方に届くといいいなぁと思っています。
3つの項目に関して考えていきます。
1、安心安全な暮らし
こちらはもちろんいうまでもなく、耐震補強と断熱工事そのものです。
まず、耐震補強に関してです。
不動産取引の際、新耐震か、旧耐震かということは伝えられますし、そこは、大きな判断基準としてみなさんご承知のこととは思いますが、実は、新耐震の中でも、いわゆる81−00(ハチイチゼロゼロ)住宅と言われる、1981年から2000年の間に新築された建物も、耐震診断を受けた方がいいですよと、呼びかけをおこなっています。
それはなぜかというと、宮城沖地震が起きた際に新耐震基準というものができたのですが、その後、阪神淡路大震災が起き、新たに金物の取り付けなどが加えられ、2000年6月に現行の耐震基準となりました。
ですから、81−00住宅に関しては一度耐震診断を行い、劣化が見られないかなど確認をお勧めしています。
旧耐震の建物に関しては、筋交一つとっても、現行で決められているものとは違う場合がほとんどです。
材料もそうですが、取り付け方、場所など、「一応斜めにはついているけど」という感じです。
例えば、旧耐震の建物でも、「震度5でも大丈夫だった」とします。
でも、そこで受けたダメージにより、次の震度5に耐えられるどうかは不明です。
耐震補強には多くのお金もかかりますし、暮らしやすさには実際直結しないと思います。
でも、その建物ごとに、そしてライフスタイルによって施工方法や、どこまで、どの部分を工事するかなども検討しながら進めることで、「これで行こう」という方針が決まると思います。
せっかく中古物件をリノベーションするのですから、建物が人の命を奪ったり、近隣の建物に被害を及ぼしたりしないよう、計画の一部に耐震補強を考えるといいのではないかと思います。
もう一つは断熱です。
新築の建物においては、2025年4月から建てる際には、小規模な住宅であっても省エネ基準への適合が義務化されます。
これは、省エネのためももちろんですし、暮らしやすさにも直結すると思います。
新築はどんどん規定が厳しくなるのに、中古住宅に関しては、正直「直す際はこうしましょう」という規定が全くないのが事実。
なので、「リノベーション済み」とうたっていても、壁の向こうがどうなっているかはわかりません。でも、見た目綺麗。
そうすると、どんなことが起きるかというと、
「こんなに寒いと思わなかった」
「綺麗だから買ったのに」
そんな言葉が出てきてしまうことが多々あります。
そして、それが原因で、またお引越しされるという方もいらっしゃるようです。
それともう一つ、断熱に関しては一つやれば全て解決ではないことが多いです。
「窓を交換すれば・・・」と刷り込みのようになっていることも多いと思います。
確かに、熱が一番逃げる場所は窓です。
大きな大きな窓があった場合、それを交換すれば、かなり効果はあると思います。
でも、実際は、床からどんどん冷気が上がってくる感じがして足元が冷えたりして、窓を交換した効果が十分得られないこともあります。
耐震も断熱もそうなのですが、やればやっただけ効果はあります。
でも、やればやっただけ費用がかかります。
「ここまではやりましょう」というラインはありますが、それ以上の部分は、ライフスタイルや考え方、費用、様々なことのバランスをとって計画していくのが一番いいと思います。
2、お金
これはケースバイケースなので、はっきりしたことはもちろん言えないのですが、仮に2つの物件があった場合、私ならどちらを選ぼうかなぁという観点でお話ししたいと思います。
A:築55年(旧耐震)の木造平屋建て(30坪)
雨漏り箇所や傾きはないが、シロアリ被害はあるだろう
販売価格500万円
B:築25年(新耐震だが81−00住宅)の木造平屋建て(30坪)
雨漏り箇所や傾きなし
販売価格1500万円
両方とも立地は同じだった場合、みなさんならどちらを選びますか?
もちろん、その立地自体も関係すると思いますし、間取りや諸々、比べるところはたくさんあるので一概には言えませんが、私ならAを選ぶかもしれません。
まず、Bは、新耐震であるものの81−00住宅、いわゆるグレーゾーンの年代です。
しかも、サッシも、仮にペアガラスが入っていたとしても、今のものとは性能も違いますし、アルミの枠のことが多く、今より断熱性は低いです。
25年経っている建物ですし、購入後はおそらく、キッチン、お風呂、トイレは交換、クロスは壁天井貼り替え、場所によっては床の補修や上貼りをすると思います。
照明器具もLEDに交換。
そうすると、間取り変更などなく、ただの交換だけするだけでも選び方にもよりますが、500万円以上はかかってくることが多いです。
600万円かかったとして、物件とリフォーム費用の合計2100万円をローンを組んだとすると、諸々の条件をクリアしているとして、新耐震(昭和56年6月以降)の物件であれば、住宅ローン控除が受けられますので、物件価格1500万円の分は住宅ローン控除が受けられます。
しかしながら、リフォーム代の600万円は、金額は大きいのですが、間取り変更もなくただの交換のため、住宅ローン控除が受けられないのです。
一方、Aの場合はどうでしょう。
状況により様々ですが、耐震補強(建物内部からの補強)に600万円ほどかかるとします。
その上で耐震補強のために内部を壊しているので、シロアリ被害の部分を修繕し、全体に消毒をして新築と同等の5年保証。
サッシ(今の断熱性が上がっているサッシ)を交換し、断熱材をいれ、間取りの変更しながら水回り設備の設置、照明器具を全て交換して仮に1000万円かけちゃったとしましょう。
それでも合計はBと同じ2100万円。
しかも、耐震補強工事を一級建築士が耐震補強計画を立て、責任持って基準まで行っているため、耐震基準適合証明書が発行され、その建物はリノベーション費用含め2100万円、住宅ローン控除が受けられます。
しかも、地震保険をかける場合は、10%減額されます。
これはあくまでも仮定のお話です。
ここに書かれない比べる観点はたくさんあると思います。
ただ、何を言わんとしているかというと、
築年数ができるだけ新しいものを選ぶばかりがいいとは限らない
ということです。
ちなみに、新築を今建てようとする場合、建物だけでも30坪の平屋は2100万円で建てるのは厳しい気がします。
「新耐震か旧耐震か」「見た目が綺麗かどうか」「間取りがどうか」
そういうところだけでなく、選び方はいろいろあるんです。
例としてあげたように、古い建物を、耐震工事を計画から補強工事までしてくれて適合証明書の発行ができる業者に工事をお願いし、内装を新築を建てるように選んだり決めたりするという方法もありますし、そうすることの利点も多くありますとお伝えしたいのです。
3、循環型社会
このことに関しては、2つの面からの見方があります。
①今あるものを活かすことで、建て替えよりも処分するゴミの量は格段に少ない
②新たに造成し分譲地を作るより、今あるものを活かして循環させていくこともSDGs
まずは①ですが、これは決して「取り壊しての新築反対!!」「中古物件を壊すな!!」と声高に言っているのではなく、全てケースバイケースです。
活かせない状態の建物は壊さなければならないですし、用途が全然違う場合なども然りです。
ゴミの量のことだけをクローズアップした場合、当然と言えば当然ではありますが、1棟まるごと全部壊すということは、見えている建物部分だけでなく、基礎も全て一度壊さなければなりません。
「基礎はそのままで、その上に建てられれば、コスト削減にもなるのに」と思うことももちろんあるのですが、それはできないのが実情。
なので、解体するって、結構費用も当然かかりますが、ゴミの量もたくさんです。
家庭でのゴミでも地域差はかなりありますが、多かれ少なかれ分別の必要性があるように、建築現場も同様、分別をしなければなりません。
なのでそういう分別の手間もあります。
解体は、豪快なイメージがありますが、丁寧に行われています。
リノベーションで内部を解体していくときも、一つ壊しては、木なのか、金物なのか、砂壁かなど、分別していきます。
解体も、人の手によるところが多い作業です。
次に②ですが、これはもはや、一つの住宅、一個人のお話ということでは収まりきらないことですね。
人口減少が叫ばれ、空き家も大きな問題になる程どんどん増えている今、新しく土地を切り開き分譲し、新しい建物を建てるということが果たしていいことなのかと思っています。
今ある建物を使えるうちに、直せるうちに次の方に引き継いでいくことで街の景観も保たれ、そこで暮らす人々の輪も繋がっていく。
そんな世の中を思い描いています。
「中古の物件なら安く買えるから」
「まぁ、中古でいいにしよう」
「新築じゃなきゃ自分の暮らしは叶えられない」
そういう考えから、
「この場所でこの建物を活かして暮らそう」
そんな思いが根付いていってくれたら建物も人も共にハッピーになれるのではないかと思っています。
古い建物の維持管理はお金がかかります。
でも、新築を建てるよりコストが下がることも多いですし、直すことで今のライフスタイルに合わせることも可能です。
循環型の持続可能な社会のためと言ったら、なんか大袈裟のような気もしますが、中古の建物をリノベーションするっていうことは、こんなことにも繋がっているんだなぁと思えたらいいなぁと思います。
以上3つの方向から中古の建物をリノベーションすることについて書いてきましたが、いかがだったでしょうか。
建物はひとたび、人が暮らさなくなったり管理しなくなると、朽ちるスピードが一気に上がります。
ひとりぼっちになる建物が一つでもなくなり、新たな時を刻み始められるように適切に直していきたいなぁと思っています。
「この建物は、直せば使えるのか?」
「この建物で、実現したいこんな暮らしはできるか?」
気になったり、不安になったらご相談いただければ、ご一緒に考えさせていただいています。
中古物件、空き家を活かした、今のライフスタイルに合わせたリノベーションは、性能向上リノベの会と木耐協の会員の私たち、株式会社アクリにご相談ください。
#防災いまできること