読書感想文(85)小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は専門外の分野です。
You Tubeのとある動画で紹介されていて、面白そうだなと思って手に取りました。

感想

軽い気持ちで読み始めたのですが、割とがっつり専門書だったのでしんどかったです笑。
200ページ弱しかありませんが、読むのにかなり時間がかかりました。

まずそもそも「ケアの倫理」とはなんぞやというと、「正義の倫理」と対立する概念のようです。しかし「正義の倫理」が私にはよくわかっていません笑。
キャロル・ギリガンという人が提唱した概念です。
私の理解では、近年(?)自立を重要視する傾向が殊に強いようだが、みんなで助け合うというのも大切じゃない?という話でした。
特に、現在はまだ性別格差や人種差別が残っているので、弱い立場にある人を対等な立場にするためのケアが必要だろう、という感じです。
これを書いていて、何度も「直立人」「横臥者」という言葉が出てきたことが思われました。「直立人」から「横臥者」に対して上から目線で救うのではなく、水平化を目指すといったことが書かれていたように思います。

私が今持っている知識で考えると、いわゆる障害者の立場の話がこれにあたるのかなと思います。
広瀬浩二郎さんがご著書『それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!』において、同じようなことを述べられていました。

孫引きになってしまいますが、鷲田清一氏の文章が『「聴く」ことの力――臨床哲学試論』が引用されており、深く共感しました。

「なんのために?」という問いが失効するところで、ケアはなされる。こういうひとだから、あるいはこういう目的や必要があって、といった条件つきで世話をしてもらうのではなくて、条件なしに、あなたがいるからという、ただそれだけの理由で享ける世話、それがケアなのではないだろうか。

これは先に挙げた障害者の例でいえば、「障害者だから助ける」のではなく「困っているから助ける」或いは「自分が助けになれるから助ける」ということなのかなと理解しています。
奇しくも、最近読んだ東野圭吾「マスカレード」シリーズのホテルマンの心得に通ずるところがあるように思われました。ホテルマンは「お客様」限定なのかもしれませんが……笑。

ここまで書いた文章を読んでみて、結局ケアの倫理が何なのかよくわからないなと思いました笑。
この本の中ではネガティブ・ケイパビリティという概念が参考になりました。これは結論を急ぐのではなく、不明確なものはそのまま宙ぶらりんのままにしておける能力のことです。自分の論理で断定してしまわないこと、なのかなと思います。

道徳と倫理の違いも述べられており、倫理とは道徳のように原理に縛られるものではなく、具体的な状況に対してどう振る舞うかに関わるものである、といったようなことが書かれていました。
例えば「困っている人を助けましょう」という道徳を持っていても、危険を察知した人物からは距離を取るという判断をするのが倫理観です。だから倫理には迷いや悩みがつきものである、と。
これも色んなことを考える上で大切な気がします。

ここまで「ケアの倫理」について書いてきましたが、「ケアの倫理」自体は以前から提唱されてきた概念で、この本の中心はそれを文学研究者の立場から考察することです。
私は例に挙げられている本をほとんど読んで来なかったので具体例はほとんどわかりませんでしたが、テーマとしては「ジェンダー」「セクシュアリティ」「人種差別」などが挙げられており、様々な文学作品を通してそれらについて述べていました。
この中で最も理解しやすかったジェンダーにおいては、例えば女性の家庭におけるケアが軽視されてきた、また強制をされてきた、という話がありました。
近年、女性の社会進出が叫ばれていると思います。特に日本では未だにジェンダーギャップが激しく、その点で弱い立場にある女性をケアする必要があるということです。
一方で、そのようにしてこれまでケアの役割を担ってきた女性が社会進出することに伴って、人類全体としてケアの倫理が軽視されていくことには危機感があります。いや、このような書き方をすると良くないかもしれません。女性の社会進出以外においても、男性の出世競争などを見ても、ケアの倫理というのは軽視されているように感じます。
ケアの倫理はそもそも資本主義社会の構造と相性が悪いように思います。
しかし現在、国際社会の共通の目標であるSDGsの存在を思うと、ケアの倫理の価値はこれから増してくるのではないかと思います。

おわりに

色々と書いてみたものの、まだあまり内容を整理しきれていません。
まずはケアの倫理について入門的なところから学ぶ必要がありそうです。
しかし、ケアの倫理という概念に触れられたことは良かったと思います。
これが私が長年疑問視していた自己利益の追求のアンチテーゼではないかと思っています。

ということで、(いつも通り)まとまらない文章となってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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