読書感想文(237)青山美智子『月の立つ林で』
はじめに
こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。
今回は本屋大賞にノミネートされている青山美智子さんの作品を読みました。
青山美智子さんの本は、以前『木曜日にはココアを』だけ読んだことがあります。心の温まる優しいお話だったのを覚えています。
同じく本屋大賞にノミネートされている凪良ゆう『汝、星のごとく』を読んで、心が少し沈んでいたので、その回復を見込むという意味もあって、この本を手に取りました。
(↓『木曜日にはココアを』の感想文)
(思っていた以上に、内容と関係無いことばかり書いていました笑。まあ、内容に関する深い感想は他の人がしてくれているというのは確かに一理ありますが)
感想
とても良かったです。
月にまつわるお話から物語が様々に展開されており、面白かったです。
また、それぞれの人物を応援したくなりました。登場人物が皆良い人で、だけど勿論完璧じゃなくて、そういった所も良いなと思いました。
不器用で、周りの優しさに気づけないことも多いけど、ふとした時に気づいて感謝できるのは素敵だなと思いました。
読み始めてまず初めに、一番最初の一文目から、印象的でした。
人のために役に立ちたいと、ずっとそう思ってきたけれど、「人」とはいったい誰のことなんだろう。
この気持ちになったことが私もありますが、本書の後半で全く同じ答えに辿り着いていました。
「好きとか嫌いとか、そういうことじゃないんじゃないかな。ただ誰かの力になりたいって、ひとりひとりのそういう気持ちが世の中を動かしているんだと思う。俺が芝居やってる理由もそうだよ」
「誰かって?」
「わかんないけど、誰か。自分じゃない誰か」
佑樹さんはどこか遠くを見るようにして、ちょっとほほえんだ。
「それがどの人なのかなんて、わかんなくたっていいんだ、きっと」
私がこの考え方に触れた経験として明確に覚えているのは、高野山金剛峯寺にお参りした時でした。ガイドのような方が解説していたのをたまたま耳にしました。その時、私は競技かるたの大会前日だったのですが、自分の優勝ではなく、他人の幸福を祈りました。結果、優勝できたのは、同じくどこかの誰かが祈ってくれたおかげもあるかもしれません。
自利利他という言葉は、後に知りました。
逆に自分の中に無かった考えとして、ハッとさせられたのは次の一文です。
でもね、何かを生み出すためには孤独でなければならないって、今の私は、そう思わないわ。ひとりの時間を持つことと孤独は別のものよ
孤独が生み出す力、或いは苦しみが生み出す力は強大で、これを活かすことができればパフォーマンスを飛躍的に向上させられると私は思っていました。
しかし確かに周りと繋がっている環境がプラスに働くことは大いにあると思いますし、繋がりながら勝手に孤独を感じるのは周りへの感謝が足りていないということにもなるのかなと思いました。
これからじっくりと考えたいテーマです。
この作品を読んでいて一つ気になったのは、新月の考え方です。はじまりの象徴や見えないけれど存在するという点は素敵だなと思いました。ただ一点だけ気になったのが、月が夜のものというイメージです。そして新月が空にあるのはお昼です。夜空を見上げながら新月を思う描写が不自然に思えました。まあ、地球の真反対にあるので、どこかに存在すると言えばそうなのですが……。
せっかく月にフォーカスするなら、少しくらいお昼の、光を失った白い月にも、光を当ててほしかったなぁと思いました。これはないものねだりですし、創作者に対して失礼というか、勝手な意見ではありますが……。
最後に本題と少し逸れますが、ハンドメイドやフォトグラファーが出てきたのが、『汝、星のごとく』と共通しているのが気になりました。最近の流行りでしょうか?
確かに、ハンドメイドを通販サイトで売り、小さな収入(或いは大きな収入)を得るというのは、増えてきたのだろうと思います。ただあえてそれが小説に選ばれるのはなぜなのか、気になりました。
一つは組織中心から個人中心へ移行しつつある社会の現状の反映、そしてそういった人達に共感されやすい(或いは上手くいく理想像を見させられる)から、或いはもっと別の点から考えると、会社等の人間関係を書かずに済むからかもしれません。もっと単純に、自分のやりたいことをやるという一つの身近な形なのでしょうか。
とにかく、偶然二作連続で出てきたので、気になったことをメモしておこうと思いました。
おわりに
そこそこ長くなってしまいました。
この作品は何度でも読み返したいと思いました。
青山美智子さんの他の作品も、もっと読んでみたくなりました。今のところ気になっているのは『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』『月曜日の抹茶カフェ』です。
ということで、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。