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目の前には3つの道、選ぶのはー。〜表現者たちの伏線Vol.3長利和季さん③〜

様々な発信活動をする方々に、その活動を続けるに至った「過去の伏線」と、今現在の活動から導かれる「未来の伏線」、2つの視点から迫るインタビュー「表現者たちの伏線」。第3回となる今回は、シンガーソングライターを経て、現在Calm Room代表を務め心理士、音楽家、ラジオパーソナリティなど様々な顔を持つ長利和季さん。第3話となる今回は、進路選択の岐路に立つ長利さんの選択から、現在の活動への核心的な伏線に迫っていく。(第二話はこちらから)

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ー今思い出すと恥ずかしいけど、高校生なりに拡大解釈した、社会への不満みたいなことを歌ってた

軽音楽部でのその後の活動って固定のバンドを組んでやったりしていくんですか?

そうだね。高3の時に「なんかボーカルうまいやつがいる」って話になってたらしく、当時はまだ疎遠だったメンバーに誘われて、結成したバンドがあった。そこで、「ピンボーカルじゃ面白くないよな」って話になって、ショルダーキーボードを買った笑。それを背負ってライブしてたね。

ここでついに鍵盤が笑!でもピアノ習ってた記憶はないんですもんね、「どうやら俺習ってたらしいけど...」って感じですよね。

そうそう笑。片手だし肩からかけてるから、弾くなんてもんじゃないしね。そのバンドでコンクールにも出た。出場するために、高3の夏に「おさり曲作ってよ」って言われてオリジナル曲を作り始める。テーマとしては、今思い出すと恥ずかしいけど、高校生なりに拡大解釈した、社会への不満みたいなことを歌ってた笑。あと、歌詞を書くときのスタンスみたいなのは今にも通じるのものがあって、小説みたいに書いていく感じなんだよね。主人公がいて、サビに向けて登場人物たちがアクションを起こしていくというか。作り方としては、その頃にはギターもコードくらいは弾けるようになってたから、家にあった電子ピアノとギターを駆使して作曲してた。あとDSソフトの「大合奏バンドブラザーズ」。

懐かしすぎますね笑!そっか、DS最盛期ですもんね。「マリオカート」に「リズム天国ゴールド」に...

その辺のソフトが出たあたりだね笑。

高校って、そういったゲームの誘惑に負けずに笑、勉強は引き続きそつなくこなしてる感じですか?

そうだね、印象的なのは国語で、古文漢文が始まって、より面白さに気づいていったね。そんなに苦労せずとも意味は取れたし、文章として読めてた感じがあったかな。あと好きだった教科としては、音楽と家庭科かな。

家庭科!!!意外ですね。

家庭科は調理師を目指すぐらいには好きだった。というのも、自分の中で高3の段階で、3つの進路を考えていて。ひとつがその調理師、あとは心理士と、声楽で食べていく道。理系、文系、音楽って感じだね。

ー先生からは「音楽の難しさ」を教わった

なるほど、じゃあひとつひとつ聞いていきますね笑。まずはじゃあこれまでの話と近いところで、声楽についてお聞きしたいんですが....

外部の合唱団に所属する中で、テノール歌手の先生に出会って、その方に声楽の個人レッスンを3年ほど受けてた。そのレッスンの影響もあって、音大に進学することを意識するようになった。でも、体が弱かったこととか、ただでさえ男が声楽で食べていくのって難しいっていう現実もあって、諦めたんだよね。でもその先生の存在は自分にとってすごく大きくて、先生からは「音楽の難しさ」を教わった。食べていくことだったり、続けていくことだったり。

小中高とそれぞれ音楽の師がいるんですね。

そうだね、楽しさ、厳しさ、難しさそれぞれ教わってきた。その先生に教わっていく中で、ホテルで歌わせてもらったり、コンクールで全国3位になったり、いろんな場で歌う経験ができたのは大きかった。そして同じ門下に、切磋琢磨する仲間もいて。小学校で合唱を始めた時、同じボーイソプラノだったころから、ずっと付き合いがある親友がいて。合唱から声楽も始めてっていう同じ流れでずっと競い合ってた。

めっちゃ少年ジャンプ的展開じゃないですか!

その彼は、そのまま音大に行って、声楽の道を進んでる。帰省してきた時に飲みに行ったりして、お互い違う道だけど、音楽は続けてるねっていう話をしたりとか。

この話だけで十分映画化できそうですけどね...じゃあここで声楽の道は諦めるんですね。では次に移って、調理師はどうして志したんですか?

高3の頃に、ヘルニアの手術をするために1週間入院したんだけど、そこで食べた病院食がすごく美味しく感じて。そんなにいい印象がなかったから、「なんてバランスの取れたいい食事なんだ!」って感動したんだよね。その体験を経て、栄養とか料理に関して興味が沸いた。

「これ作れる人ってすごいかも...」みたいな。

そう。そこから自分で栄養の勉強をし始めて、選択授業でも家庭科をとって。管理栄養士も視野にいれていたんだけど、いかんせん興味を持つのが遅かったんだよね。文理選択の段階で文系を選んでいたのもあって、これから理系の勉強をしていては間に合わないっていう現実があった。受験はしてみるんだけど、やっぱり結果はついてこなくて。そこで諦めることになった。でも、その後食品衛生責任者を取得したり、料理をしたりって面で興味はそれからもあったかな。そのこともあって、最近ライブハウスでフードの出店をさせてもらう機会をいただいたりして。

ー会話を通して人を癒したり、支えになるっていうことに憧れを抱くようになった。

なるほど、やっぱりタイミングって大きいですよね...出会い方は意外でしたけど。では最後に、心理士についてお願いします。

これは、体調のこともあって学校にあまり行けない時、学校のカウンセラーさんと話す機会があったのが大きいかな。中3の時、別室登校の子に給食を持っていくっていうのが自分の役割になってて。その時にカウンセラーの先生とよく話していた。自分も体調は悪かったし。そのことをきっかけに、会話を通して人を癒したり、支えになるっていうことに憧れを抱くようになった。自分が今までそうしてもらう立場だったのもあって、今度は誰かにしてあげたいっていう気持ちになったんだよね。自分の境遇の昇華というか。

かなり自分の境遇を省みてる感じがしますね。あと、3つともきっかけがちゃんとあるのがすごいですよね。全てにちゃんと自分から努力なさってますし。

自分で話してて気づいたけど、たしかにそうだね。どれもやりたいものだったからこそだと思う。で、その後自分の出席日数でも通える大学が見つかって、心理を学べる石巻の私立大に進学する。

ー小さい頃まで遡ったら、一人で歌うのがそもそも好きだったじゃん?っていう。

じゃあ無事に大学生になりまして。

なりまして。大学生になったタイミングで、自分がすごい自由なことに気づくんだよね。中高のように部活やサークルに所属もしてないし、部長みたいな役割もない。外部の合唱団は高3の受験を機に退団していたから、本当に時間があって。だからこそここで、「大学での勉強以外にやりたいことってなんだろう?」って考えるようになった。そして結論として「やっぱり音楽だ!」って思えた。上に立つ立場じゃなくなったからこそ、本名で、自分のやりたい音楽を好きにやりたいなって。

今までリーダーだったりまとめ役だったりしたってことは、同時に自分で一から作る経験は実はしてなかったってことだったりしますもんね。

そう。小さい頃まで遡ったら、一人で歌うのがそもそも好きだったじゃん?っていう。

まさに伏線ですね笑

そこから長利和季としての音楽活動が始まった。そこからこつこつ準備をはじめて、初めてのレコ発を大学3年になる2016年の3月にやる。

これが1st Single「cigarette」のレコ発ですか?

そうだね。

ー個人名義になってからは、日常がいかに尊いかっていうのを、自分の内から出るものとして書けるようになった。

この音源の制作はどういう感じで進んでいったんですか?

まず、軽音楽部として関わりがあったのもあって、大学生になってからライブハウスで働き始めた。そこでいろんなつながりができていったのはその後の活動にとても大きかった。cigaretteに収録している楽曲は、その時に出会った方々に依頼して、バンド形態で収録した。

今改めて振り返って、歌っていることのテーマ性に共通点って感じたりします?

明確にあるね。この作品に限らず、僕はずっと「日常の大切さ」っていうのをテーマにしていて。価値観やアプローチは変われど、その芯はブレてないんじゃないかな。高校の時は社会への不満みたいなものを、「こういうものが多いから」って理由で書いてた。でも個人名義になってからは、日常がいかに尊いかっていうのを、自分の内から出るものとして書けるようになった。特に「cigarette」収録の「あなたが目覚めたその朝に」はその最たるものかなと思う。この曲は2nd Single 「camellia」収録の「寝室の幽霊」と対になっていて。単語やモチーフのレベルまで、対比させて歌詞を書いた。

そういう「対句」みたいな手法って、長利さんの中で意識的にやろうとしてやってることですか?それとも後から思いついてやってますか?

それはなかなかはっきり答えるのは難しいけど...でも、お話を描こうとはしてるかな。歌詞を書く時は、小説に近い形で描写するのを意識していて。物語があって、それを曲にするとこういう感じっていう。漠然とした物語を言語化していく感覚だね。だからこの頃の歌詞は完全にフィクションとして書いてる。

なるほど。僕の中で、長利さんの書く歌詞って「カメラの位置がわかる」感じがしていて。僕が受けた印象は、今の話から来ているのかもしれないと思いました。歌詞であり、ストーリーテリングっていう。

ありがとう。歌詞を読んだり曲を聴いたりして、情景が浮かぶといいな、と思って書いてる。自分自身がそういう歌詞や作品が好きだしね。それも、小説を沢山読んできたことと関連してるのかもしれない。

なるほど。ここから「camellia」まではどういう活動をしていくんですか。

そのあとは、「(『cigarette』という)名刺がわりの作品ができた!」ぐらいの気持ちで音楽活動に力を入れていった。毎日どこかのライブハウスの出演者欄に「長利和季」の名前があって、周りも、「この人最近名前よく見るな〜、なんて読むんだろ」みたいな。そんな中で、cigaretteのレコ発から半年後、喉に違和感を感じるようになった。でも、ずっと不調っていうわけじゃなかったんだよ。治ったり悪くなったりを繰り返してて、実際ライブも多かったから、「風邪かな?」程度に思ってた。最初は風邪薬を処方されたけど、なかなか良くならなくて。流石に不審に思って、別の病院に行ってみた。そして、2016年の9月7日。そこで初めて、「ジストニア」っていう自分の病気が分かる。

(第4話へ続く)

病気の発覚以後の作品や、活動休止に至るまでの道のり、そして今を「生きる」長利さんの新たな活動から導かれる「未来」に迫る第4話は、3/24公開予定。


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