『鮎師』夢枕獏(1992)|読書感想文
【本の紹介】 主人公がいつもの川で鮎釣りをしている時に出会った初老の男性。彼が言うには、この川には誰も見たことのないような巨大な鮎がいるらしい。やがて二人はその鮎を狂ったように追い始める。
感想
鮎釣りの世界をのぞく
身近に釣りをする人がいないので、釣りは、特に川での釣りは、じっと釣り糸を垂らしていて、運が良ければ何かの魚が釣れるくらいのとても退屈なものだと思っていました。しかし、魚によって仕掛けを変えたり、ポジション取りの駆け引きがあったり、川や魚の種類によって時期や釣り方、餌のルールが決まっていたりと、意外と気を使わなければならないことが多く、スポーツのようだと感じました。少しは釣りの面白さが分かった気がします。
自然環境と人間
途中、主人公たちがいつも釣りをしている川が護岸工事により、形を変えられてしまいます。主人公たちは、これでは鮎が生きていけないと憤慨します。この本の書かれた30年ほど前は、環境問題、特に山や川をブルドーザーなどで破壊する行為がとてもセンセーショナルに報道されていた時期だったとなんとなく記憶しています。人の命、住むところを守るためとはいえ、読んでいて少し辛くなる場面でした。そして、環境問題について、少し考える場面でした。それでも自然は人よりも力が強くて、破壊されたものをあっという間に元に戻してしまいましたが。
なにかに取り憑かれること
妖怪や怨念、そこまでになってしまうような人間の深い欲や執着などを読んでいると、とてもおもしろいなと思います。私は、陰陽師シリーズから夢枕獏を読み始めたので、特にそう感じます。今回も、死と女と執着と狂気。人間の仄暗い感情が垣間見られて楽しかったです。