魚は糖尿病動物?養殖に炭水化物エサを使えたら嬉しい理由
「魚は糖尿病動物」
とある専門書に記述された表現です。
もちろん、実際に魚が糖尿病というわけではなく、比喩的な表現です。
これは、魚の代謝が私たち哺乳類と異なり、糖(炭水化物)をうまくエネルギー源として利用しにくいことを示しています。
もし、魚が炭水化物をもっと効率的に消化できるようになれば。養殖業界にとって大きなメリットが生まれるそうで…。
魚はなぜ「糖尿病動物」と言われるのか?
私たち人間が食べるご飯やパンなどの炭水化物は、体内で消化されブドウ糖(グルコース)として吸収されます。血糖値が上昇すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、細胞がグルコースをエネルギーとして取り込む仕組みになっています。
こちらのwebサイトの解説がとってもわかりやすいです。
しかし魚の場合、このインスリンの働きが哺乳類ほど強くなく、血糖値が高いままになりやすいのです。これはまるで「糖尿病」のような状態に近いため、「魚は糖尿病動物」と表現されることがあります。
とくに肉食の魚(≒自分より小さな魚をエサとする魚)は、主に脂肪やタンパク質をエネルギー源として利用します。自然界で炭水化物をあまり摂取しませんから、養殖用の餌に炭水化物が多く含まれていても、うまく消化吸収できず、エネルギーとして活用されないまま排泄してしまうのです。
養殖における炭水化物の問題
魚が炭水化物を消化吸収しにくい。それが養殖にどうつながっているのでしょうか。
実は、養殖事業の経営にかかるコストの中で、エサ代は大きな割合を占めています。つまり、そのコストを如何に下げられるか?という課題が非常に重要なのです。
一方で、基本的に養殖で使われる魚のエサは、主にタンパク質(魚粉や大豆タンパクなど)と脂肪(魚油など)で構成されます。魚粉や魚油の価格が年々高騰する中で、コスト削減のためにはより安価な炭水化物をエサに活用できるようにすることが1つの解決策として注目されています。
もし魚が炭水化物を効率よく消化できるようになれば?
魚粉や魚油に頼らず安価な植物性の原料(とうもろこしや小麦など)を活用できるようになり、養殖コストが低減できる。それに、魚粉の代替として植物由来のエサを使えるようになれば、水産資源への依存が減り、より持続的な養殖が可能になる。養殖エサの問題を解決に導けるかもしれないのですね。
炭水化物をエネルギーにしてもらうために
魚が炭水化物エサを消化吸収できるようにしたい。そんなアイデアを持って様々な方向性の研究が進められています。
エサを消化しやすい形にできないだろうか?
私たち人間が普通の白飯よりもおかゆの方が消化しやすいように、同じ原料を使っていても食べるときの状態を工夫すれば消化しやすくなる可能性があります。90年代にすでにこうした研究が進められており、エサの加工方法が効率に影響することが示されていました。(例:鄭寛植, 竹内俊郎, and 渡邉武. "エクストルーダー処理した炭水化物原料のマダイに対する栄養価." 日本水産学会誌 57.8 (1991): 1543-1549.)
エサを消化する酵素と一緒に食べさせたら?
牛は食べた草を胃の中で発酵させ、微生物によって分解させる仕組みを持っています。実は牛自体は草を直接消化できませんが、胃の中の微生物が分解することで、最終的にエネルギー源にできています。
では魚にも、エサと一緒に炭水化物を消化する酵素を食べさせれば同じことができるのでは?そんな発想でエサに様々な酵素を混ぜこんで消化効率が上がるか調べるという研究もあります。(例:Hanini, Imen, et al. "Effects of taurine, phytase and enzyme complex supplementation to low fish meal diets on growth of juvenile red sea bream Pagrus major." Aquaculture Science 61.4 (2013): 367-375.)
こうした研究が積み重なり、いつか養殖エサにイノベーションが起こるかもしれません。
まとめ
魚が「糖尿病動物」と呼ばれるのは、炭水化物をうまく代謝できず、血糖値を調整しにくいから。
タンパク質や脂肪を主成分とするエサを炭水化物に代替できれば、コスト削減、環境負荷の低減といったメリットがある。
これを叶えるために、様々なアプローチで研究が進められている。
でした。
私たち人間は魚よりも炭水化物を消化する能力が高いですが、それに甘んじて本当に糖尿病にならないように気を付けましょう。
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