「陸上養殖でつくった」を売りにするときに考えたいこと
育てるを育てる。AQSimです。
商品って、
どうすれば売れるのでしょう?
答えは、商品の種類や性質、事業規模、取引先、誰が、いつ、どこで売るのか…などなどなどなど。様々な条件によって異なるでしょう。むしろ誰も明確な答えは見つけられない疑問とも言えます。
ただ、1つシンプルに言えそうなことはあります。
商品が売れるには、
消費者に、「買ってもいいかな」と商品を受け入れてもらうステップがある。
行ってしまえば当たり前。
ですが、そのメカニズムへの理解は深めておいた方がよいでしょう。
本記事では、2022年に出版されたアメリカの研究論文を少し引用しながら考えていくキッカケとしたいと思います。
おことわり
今回の記事では以下の論文の内容を引用しながら考えていきます。ただし、この記事は論文内容をすべて紹介するものではありません。情報量はかなり削られており、考えるキッカケとなる部分を引用していく構成となっています。ですので、論文のより正確・より詳細な情報を知りたい方は原著を参照していただくようにお願いします。
自然か不自然か。
自然にみえるか、不自然にみえるか。
これが、消費者が商品を受け入れるか否かに影響するようです。
身近な例でいうと、遺伝子組み換えや、農薬を使用された果物、クローンの羊などは”不自然”に感じられて購買を避けられる場合がありますね。
一方で、天然由来の飼料で育てられたり、放牧で育てられた畜肉や、無農薬野菜などは“自然”に感じられて、価値が高いという印象がありませんか?
このような現象は、農業の分野では盛んに研究されてきたそうです。
ならば、水産物、とりわけ陸上養殖においても同じことが言えるのでしょうか?(感覚的には言えそうな気がしますよね)
とくに陸上養殖は、ゲノム編集技術・人工エサ・飼育環境の徹底的な管理といった、革新的な技術の積み重ねがあって成り立っています。むしろ、そうした人の手によるコントロール・改良が可能という部分こそが強みです。
”過程の自然さ・不自然さ”の認識が買い手の心理にどう影響するのか。
「陸上養殖でつくりました」がどんなイメージを与える可能性があるのか。
育てた魚が売れなければ意味がない。
だからこそ、早い段階で調べておくべきですよね。
今回参考とした論文はその疑問に対する示唆に富んでいました。
陸上養殖へのイメージの良し悪し
論文では、閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)と呼ばれる新しい養殖技術を題材に、実際に実装or計画された、アメリカの4地域、計71名*の利害関係者に対するインタビューが実施されました。
*地方政府や、企業、地元住民、大学、ジャーナリストなど、多岐多様な立場の人々が含まれています。
「陸上養殖=漁業と農業のハイブリッド」というイメージ、確かにありますよね。だからこそ、陸上養殖の良い面も悪い面も、漁業のイメージと農業のイメージ両方から連想されるわけです。
こうした特殊な捉え方をされる産業である、ということを理解しておくことが消費者の目線を知る第一歩になりそうですね。
では、自然・不自然なイメージはどんなものがあったのか。
粗くまとめてしまえば、
陸上養殖のシステムに対する人々の捉え方は、
自然・不自然のどちらもある!
…と、確かめられたようです。
その後いくつか挙げられている個別の結果は日本の養殖業にも通じていそうですので、簡単に並べてみます。
陸上養殖の「育て方」。
自然なイメージ:完全に管理されたシステムならば、マイクロプラスチックを始め、有害な物質を食べた魚が生産されにくい。野生の魚に栄養士はいないが、養殖の魚には栄養士がついているようなものだ。クリーンな食品生産システムである。
不自然なイメージ:RASは自然な生育条件からはかけ離れており、動物福祉が損なわれている。タンク内の飼育は魚にとって拷問であり、食べたくない。
陸上養殖による「廃棄物」。
自然なイメージ:海面養殖と比べて環境負荷は小さく、むしろ環境を改善するのに貢献できる。排水も湾の水よりも綺麗なレベルのもの。廃水を出すのはあらゆる農業と同じであって、RAS特有の問題というわけじゃない。
不自然なイメージ:廃水を下水道のように流してしまえば野生の魚に悪影響がおよぶ。養殖地に限らず、広範に悪影響を与えてしまう。
陸上養殖の「土地利用」。
自然なイメージ:もとが工業用地で、ある意味で持続可能性を損ねる産業が利用していた土地への陸上養殖の参入は、持続可能性に貢献する土地利用への転換として歓迎される傾向がある。
不自然なイメージ:豊かな自然環境が隣接する土地への養殖施設の建設は、守るべき自然環境の敵として反対意見を生じさせている。
同じ技術なのに、
技術のおかげで「自然」に感じられて受け入れたいというイメージと、技術の副作用的な面で「非自然」に感じられるから受け入れたくないというイメージが様々な面で両方生じていることがわかりました。
陸上養殖をやっていこう!という事業者側の目線では、「自然」な方で説明されるような技術の良さ・問題解決への貢献などがアピールポイントとされることが多いかと思います。
一方で、その裏には「不自然」な、受け入れがたさを生むイメージで捉える方もいるのです。
*参考元の論文では、この後にそうした両面的なイメージが生まれる理由や、ではどうすればいいのか?という提案をしてくれています。気になる方は、ぜひぜひ原著を読み進めてみてください。AI翻訳などの発展が手助けとなって、理解も深めやすくなっているかと思います。
悪いイメージを転換できるならば…
以上の話を踏まえると、
「陸上養殖でつくりました!」を商品価値としてアピールしようとする場合、技術が貢献している問題解決の内容をしっかりと伝えたり、(過去に定着したイメージから想起されているような)現在の事実とは異なる悪いイメージを払しょくしたりすることが重要になりますね。
例えば、「養殖モノは美味しくない。天然の方が美味しいだろう」というイメージをしばしば耳にします。もし、自分たちが自信をもって販売する生産魚についてこれが事実と異なるぞ!と主張できるのであれば、根拠をもって示すことでイメージの転換を狙いたいところです。
近年はエサを工夫した養殖魚の味の良さを科学的に検証したり、陸上養殖によってアニサキスの心配なく刺身で食べられる大衆魚が育てられていたりといった事例が増えてきていますからね。根拠になる情報も増えてきているでしょう。
良いところを見つけて、確かに周知する。
基本的な話ですがとても重要と考えています。
もしかすると、誤った悪印象を生むのは産業の中身の見えにくさが原因にあるかもしれません。
陸上養殖ってどんなことをやっているの?何が良いの?どんな課題があって、どうやって解決されようとしているの?
日々アップデートされる産業であるのに、これらが見えない状態が続いていけば、過去に見たり聞いたイメージだけで判断されても仕方がないのです。
陸上養殖の商品を適切に売っていくためには、今後そうした情報発信の重要性が増していくだろうと考えています。AQSim.infoが発信する一つのテーマでもあります。
まとめ
人は「自然」に感じる商品を好みやすい
人は「不自然」に感じる商品を避けることがある
陸上養殖のイメージは、漁業・農業のハイブリッド
裏に隠れている悪いイメージを見落とさない
産業が進歩するからこそ情報発信が重要
でした!
さて、実際にみなさんが思うor聞いた自然・不自然のイメージはどんなものですか?よければ本記事のコメントに教えてください。
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