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地平線 (小説)11
「あい君!」真夏と尚香がほぼ同時に叫んだ。店のオレンジ色の間接照明にほんのり照らされた碧の横顔がゆっくりと振り向いた。
「こんにちは。仕事お休みだったから、立ち寄ってみました。」
真夏は、ハッとして尚香とその隣にいる絵都の顔を交互に見た。二人は、驚きと何とも言えない表情を浮かべ真夏を見返した。
「あ、えっちゃん、この子、かげるさんのお孫さんの碧くん。」尚香が咄嗟に絵都に碧を紹介する。き
地平線 (小説) ⑩
乗り慣れた黒い自転車。ずいぶん長い事メンテナンスしていない自転車はチェーンが緩んでいるせいかカタカタ異音がする。それでも気持ち急いで碧は、小石を巻き上げながら、来た道を漕ぎ続け走っていった。タイヤの方からカラカラ鳴る音を聞いたが、そんな事は気にしている場合ではなかった。とりあえず前に前に漕ぎ続ける。海からの帰り道か、ウエットスーツのままの人が、碧の自転車を避けながら迷惑そうに顔をしかめる。
碧