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これからの人材育成の在り方とは?
戦略コンサルタントのアップルです。
戦略コンサルティングの仕事をする中で常に重要なイシューとして頭の片隅にあるのが「人材育成」です。これには2つの観点があります。
一つは、ファームにおけるコンサルタントの人材育成です。「企業は人なり」という言葉がありますが、まさに「ファームは人なり」。一人ひとりの脳みそ(知識、知恵、思考力)が価値の源泉である戦略ファームにおいて人材育成は最重要テーマの一つです。
・プロジェクト等で関わるメンバーをどのように育てるか?
・育てるためにどんな仕事を与え、どうフィードバックするか?
については日常的に考えています。
もう一つは、クライアントの人材育成です。以前も別の記事で書きましたが、近年コンサルティングファームに対する人材育成のニーズが高まっています。なぜかといえば、結局のところ自社の人材が育たないと、
・コンサルが描いた絵(戦略やビジネスモデル)を実行できない
-絵に描いた餅になってしまう
・コンサルと協働した案件はうまくいったとしても、その再現性が担保されない
・結果コンサルにしゃぶりつくされるか、カネの切れ目が縁の切れ目になる
というよろしくない結果につながるからです。
したがって、コンサルティングプロジェクトを通じて人材育成をしたり、人材育成の仕組みを作ったりするケースがあり、プロジェクトワークの中で考えることもしばしばあるというわけです。
そこで今回の記事では、人材育成に対する雑感(人材育成のポイントは何か、課題は何か、打ち手の方向性)について書いてみたいと思います。
人材育成の7:2:1の法則
人は何から学び育つかという点について、7:2:1の法則というものがあります。これは、社会人において、7割は仕事上の経験、2割は上司や先輩からの指導やフィードバック、1割は研修等のトレーニングから学びを得て人は育つというものです。仕事上の経験と上司や先輩からの指導やフィードバックはOJTに該当するので、人材育成の9割はOJTで形づくられるということになります。
このことは、コンサルティングファームでの人材育成の体感とも合致します。コンサルティングファームにも(各社で充実度の差はあれど)様々な研修やトレーニングのプログラムはありますが、これらはあくまで補助的なものです。いくら研修を充実させても、研修だけで飛躍的に人材が育つことはありません。メインはOJTであり、いかに質の高い/多様なプロジェクトワークを経験するか、またその中で質・量ともに充実したフィードバックを得られるかがポイントになります。
どんな人材を育てる必要があるか?
企業を取り巻く環境が激変しつつあるということが言われて久しいわけですが、そうした環境変化の中においては育成すべき人材の形も変わってきます。これまでの基幹事業(既存事業)が成長しているうちは、その事業を磨きこむために必要な人材(オペレーションエクセレンスを担保するような人材など)を従来から確立された育成方法で育成すればよかったわけですが、昨今の大きな環境変化に対応するためにはそれに加えて新たな事業やイノベーションを起こす人材、最近だとビジネスモデルをDXする人材が必要になってきます。つまり、育てるべき人材が複線化します。
例えば自動車メーカーの場合、従来は自動車のものづくりに精通したデザイナー、設計者、工場長、熟練の生産工などの人材が価値の源泉で、これらを徒弟制的に育成するシステムは確立していたと思います。しかし、近年はCASEという大きな環境変化の波にさらされる中、同じクルマ作りでもEVに最適化した人材、自動運転を実現するためのネットワークやソフトウェアの技術者やデザイナー、シェアリングエコノミー時代のビジネスモデルを組み立てられるマーケターなどが必要になっています。
こうした環境変化に対応するための新たな人材をどうやって獲得し、育てるのかについては、どの会社も少なからず悩みをもっていることと思います。
人材育成の2つの課題
これらの人材を育てていく上での課題は大きく2つあります。
(ここではエスタブリッシュされた大企業を想定して書きます)
①経験の場が少ない
新規事業やDXに関する仕事は、一般的に数が少ないです。新規事業推進室やDX推進室などの部署を作って、形としては取り組んでいる会社が多いですが、その業務や仕事のボリュームは限定的であることが多いです。したがって、そこに従事できる人材の数も限られるので、7:2:1の法則で最も割合が高い7(仕事上の経験)のところが欠落し、人材育成に拍車がかからないというのは大きな課題と言えるでしょう。
②指導・フィードバックできる人材が少ない
新規事業やDXのような難易度が高く専門性も求められる業務の人材育成においては指導者の質が問われます。マニュアル化できないような暗黙知が多いので、上司や先輩が日々手取り足取り教えたり、指導したり、フィードバックする中で、ちょっとずつできるようになっていく類のものです。7:2:1の2の部分をしっかり担保することが、7の業務経験を通じた育成効果を高める上でも大切です。
しかし、実態はと言えば、適切に指導・フィードバックできる人材がほとんどいないケースも多いです。これは当たり前と言えば当たり前で、これまで既存事業に最適化された育成システムで育成されてきた人が幹部や中間管理職を担っていることが多いからです。指導・フィードバックできる人材をどのように太くするのかも大きな課題と言えます。
これからの人材育成策とは?
以上のような課題をどのように乗り越えればよいのでしょうか?①、②の課題ともに、社内だけで解決するのは結構難しいということがまず言えるかと思います。経験の場を自力で短期的にたくさん作るのは難しいですし、指導・フィードバックできる人材も外部から即戦力で獲得するだけでは限界があります(もちろん、初動としてそういうアクティビティは必要ですが)。
したがって大きな方向性としては①、②の課題の解決策を社外に求めていくというのが現実的かつ筋がよいのではないかと思います。新規事業やDXの経験の場が社内に少ないのだとすれば、そうした場を割り切って社外に求めるということです。
例えば、出資先、業務提携先、取引先がよい経験の場(や指導人材)を持っているとすれば、そうした外部ステークホルダーに人材を送りこんで育てるというアプローチはこれからの時代重要になるでしょう。また、最近盛り上がりつつある副業を活用するのも一手です。大胆に副業を解禁し、副業を通じてスキルや経験を身に着けてもらう。本人は副業でやりたいことができ、会社としては副業を通じて人材が勝手に育ってくれる。うまくやればよいWin-Winの関係が作れるはずです。
このように、社内という枠を超えていかに企業の成長に必要な人材を育てられるかが今後の競争優位性を左右するように思います。
まとめ
今回の内容をまとめておきましょう。
◎人材育成の基本は7:2:1の法則。9割はOJTであることはしっかりと認識しておくべき
◎環境変化の中、どの企業も新たな人材を新たな育成システムで育てていかないといけない状況
◎課題は、新たな人材を育てるための経験の場と指導者の欠如
◎この解決策を社内に求めるのは難しい。出資先や取引先への出向や副業などを通じて、社内の枠を超えた社外で育成するエコシステムを作れるかどうかがポイント
今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!