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出会い、というものは6割忘れられ、4割強く印象に残る、と体感する。

2022年のあの聖夜に、ある一角でここだけが当たり前のように放った。それはあまりに強い光を放って、ここだけでは収まりきらなくなって、外に漏れ出た光はまた新たな人々を“当たり前”へと引き込んだ。

“意味の無いもの”だと括って見向きもしなかったものが、時を経て“ものすごく魅力的なもの”に変わっていた。

とても優しい世界に逃げていた。僅かな空気の揺れにすら敏感になっていた頃、信用出来る手に背中を摩ってもらいたかった。ひとりぼっちになった気分の夜は、今から行くから待っててと、何もかもが上手くいかない日には、大丈夫だと、緊張で吐き戻してしまいそうな瞬間に、上手くいくよと、誰かに否定された心に、君のままでいいと、そう言ってくれる世界。

ずっとここに居たいと、そう思っているはずなのに、ここから旅立たなくてはいけない、ここから進まなくてはいけないと、見えないところにいるわたしに焦らされる。言われるがまま外に出る。怖くて引き返しそうになる。君のままでいいと肯定されたわたしは、いつしか霞んで、ぐちゃぐちゃで、“君のまま”がどれなのかわからない。

わたしを救う夜が好きだ。
夜は、夜にひっそりと起きている時間は、自分だけがこの良さを知っているような優越感があるし、朝日が昇るまでは、寝ていると一瞬なのに起きていると長くて、まだ大丈夫。猶予があると、そう教えてくれる。そんな夜が好きだ。

わたしを追い詰める夜が嫌いだ。
一日を振り返ったときに、どの瞬間もどうしようもなく惨めで、情けなくて、そういうことを考えさせてくる夜が嫌いだ。毎日、寝て起きたら同じ苦しみが待っている恐怖。眠ったら一瞬でリスポーン地点に戻されて、また恐怖の中を進まなくてはならない残酷さ。それが怖くて、どうしようもなく嫌で、眠れなくなった夜が何度あったか。
そんな夜が嫌いだ。

眠らなきゃ、眠らなきゃ、明日が来るのがどんなに嫌でも明日は来る、それならば、せめて眠らなきゃ。そう思えば思うほど涙は止まらないし、眠気はどこかへ消えていく。いつか優越感に浸っていたこの孤独感は、わたしを追い詰める孤独へと姿を変えていた。“今すぐ行くよ”という音声は確実に今流れているのに、当の本人は朝がくるまでに来られるほどの距離にいないし、この時間は眠っているだろう。

そんな夜に、知らない家の窓にあかりが灯っているのならば、釣られて近寄ると、同じ夜を生きる人たちが集まっているならば。こんなに救われることはあるだろうか。

夜は楽しむべきだ。よふかしは楽しいものであるべきだ。夜中は救いであるべきだ。深夜はわたしだけの、わたしたちだけのものであるべきだ。

夜が明ける。日が昇る。
家の灯はいつしか消えていた。喪失感。再び戻る孤独の地。外は人が活動し出す朝へと変わっていくのに、わたしだけが夜のまま、朝から疎外されて生きている。

何かに手招きされたような気がして、足を動かす。昨日のような集まり。ここでもやっているんだ、と思いながら近づく。

「2024がちキモいんだよ〜早く2025年になって欲しい」
「奇数調整したくなるよね」
「そう、偶数偶数偶数偶数ってのがキモい」

何を真剣に話しているのかと思えば、2024年という字面に対する文句だった。
力が抜ける。わたしがありとあらゆる物事に神経質になっている時に、別の場所ではこんなことを真剣に話しているんだと思うと、おかしくて。

「(断食道場に行ったら)食材には陰と陽の2種類があるってスタッフさんが言ってるんですよ。陽は体を温める食材、陰は体を冷やす食材。陽は根菜とかのことを言うんだけど、陰は肉とか卵とかのことを言う。ここで挙手が上がって、100キロ超の人が『すみません、デカビタは陰ですか?』と笑笑というふうにお聞きしていて、(何言ってんだ…)と。(デカビタは“陽”に決まってるだろ…!)と。デカビタなんて陽でしょ。だってエネルギードリンクっすよ。栄養ドリンクっすよ。みたいな ずっと思ってたら『デカビタは“陰”です』って。((陰なんだ…!!!))っていう笑笑」

あまりにも楽しそうで、何度か聞き耳を立てていたけれど、いつもこんな感じで、楽しそうに生きているのが羨ましくなった。

「多様性」という言葉がよく使われるようになった世界で、もっとも多様なこの場所は、どうしようもなくおかしい毎日で、心無い言葉すらも素手で掴んで笑いに変えてしまう。

わたしたちが暮らす世界は平行線で、決して交わらないけれど、お陰様で年に数日の間だけ、限りなく0に近くいられるね。最終日、そのタイムリミットが迫ってきても、寂しさは無くならないけれど、虚しさはないの、夜の完成形だと思うんだ。

わたしの大好きな夜がここにある。
変わりゆく世のスピードにも、夜が明ける早さにも追いつけないけれど、同じ時間に起きている。

夜が終わっても、この夜が終わらなければいいのに。

今年もやってくる数日間のために、きっと多くの人が願うだろう。そんな小さな願いの、100万のひとつのままでいたい。

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