#ネタバレ 映画「薬の神じゃない!」
「薬の神じゃない!」
2018年作品
民間人と公務員、その究極の姿は似ている、のか
2020/10/18 18:07 by さくらんぼ(修正あり)
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
本当は映画「マイルス・デイヴィス クールの誕生」を観に行ったのですが、スクリーンの小さな部屋だったので、急きょ大きい方に変更したら、映画「薬の神じゃない!」だったのです。
そうです。ご批判を受けるかもしれませんが、私には映画の内容よりも大切なことがあります。趣味の話ですからご容赦ください。
そんなこんなで、クールに浸ろうと思っていたのが、ホットな世界になってしまいました。
でも、主役二人が、ムロツヨシさんと小栗旬さんみたいで、初対面の気がせず楽しめましたよ。
なかなか良くできたB級ドラマでした。
奇をてらった演出をしていないので、安心して老若男女におすすめできます。
楽しませて、ラストにはジーンとさせてくれました。
★★★★☆
追記 ( チラシの写真 )
2020/10/19 9:07 by さくらんぼ
劇中に2~3回「千手観音」のような像が出てきます。詳しくは知りませんが救済の観音様なのでしょう。
チラシを見ると、主人公・チョンの周囲に沢山の人が集まっています。これは千手観音を記号化したものでしょう。
そして、同時に赤十字のマークであり、
劇中に牧師様も出てきますが、キリスト教のエッセンスも入っています。つまり十字架なのだと思います。
「神様か仏様か」みたいなセリフも出てきましたね。
追記Ⅱ ( 民間人と公務員、その究極の姿は似ている、のか )
2020/10/19 10:00 by さくらんぼ
「 だれも、ふたりの主人に兼ね仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛し、あるいは、一方に親しんで他方をうとんじるからである。あなたがたは、神と富とに兼ね仕えることはできない。 」
〈 「ウィキソース」 マタイによる福音書(口語訳) 第6章:24 より 〉
貧しい主人公・チョンは、一発大逆転をしようと、ジェネリック薬の密輸・密売を始めます。
薬効があるとはいえ、未認可薬品の密輸・密売ですから、中国の法律ではかなりの重罪になります。
それもあって、途中でその仕事から手を引き、別の商売で成功しますが、正規の薬が買えない貧しい人たちが生死の問題に瀕し、ジェネリックを熱望していることを知り、私財をなげうって(原価以下で)、ふたたび密輸・密売を始めたのです。
チョンは中国の法律に従わず、神さま仏様の導きに従ったのです。
一方、チョンを犯罪者として追いかける敏腕刑事・ツァオは、調査をしている内に、「チョンが売っているのは偽薬ではなく、安くて薬効があるジェネリック」であることを知り、「取り締まることは貧しい人民を苦しめることになる」と上司に掛け合いますが、上司は頑として命令の撤回をしません。
安いジェネリックが出回ると正規薬品売り上げが落ちるので、正規の製薬会社は、警察上層部に徹底した取り締まりを要望していたのです。警察としても、まだ中国で未認可の薬品を認めるわけにはいきません。
自由な民間人・チョンと違い、宮仕えの刑事・チョンは自由がありません。
苦しんだ担当刑事・ツァオは、やがてチョンと心を通わせるようになります。ツァオは刑事でありますが、心はチョンに寄り添っているのです。
追記Ⅲ ( 磔 )
2020/10/19 10:29 by さくらんぼ
>劇中に牧師様も出てきますが、キリスト教のエッセンスも入っています。つまり十字架なのだと思います。(追記より)
刑事・ツァオは事件捜査で手のひらを怪我しました。
チョンの部下である白血病患者の不良少年・ボンは、チョンと喧嘩してコップで手のひらを怪我しました。
ふたりとも手のひらから血を流したのです。
それから、ポールダンサーの白血病患者・リウは、もろに磔ですね。
これをキリスト教を絡めると、イエスが十字架で磔になったエピソードの記号になるのでしょう。
ボンはクライマックスに特攻隊のように死にますし、ツァオは二人の主に仕えなければならない苦しみの中を生きることになるのです。
不本意な世界で生きなければならないツァオの苦しみは、経験者でなければ分からないかもしれません。
そしてボンは、前半は長髪(イエスの記号か)ですが、死の直前は坊主頭(ブッダの記号か)になるのです。
追記Ⅳ ( 「鶏が鳴く前に三度私を知らないと言うであろう」 )
2020/10/19 16:16 by さくらんぼ
密売を開始したチョンのところには、インフルエンサーから情報を得たバイヤーが多数集まりました。
しかし、皆マスクをしています。
そして値切ってきました。
チョンは「高いだと?、こっちは危ない橋渡っているんだ」「皆、礼儀を知らんのか、マスクを外せ!」みたいな事を言いました。
「踏み絵」ですね。
本音では、密売ですから「顔を見せない奴は信じない」といったところでしょう。華僑を生んだ国です。顔出しで信用できるファミリーを形成しようとしているのだと思います。
皆、マスクを外しました。
チョンは値段を下げました。
その「マスクを外す」行為は、映画のラストにも出てきます。
チョンが中国としては軽い懲役5年となり、護送車で裁判所から出ていくとき、道端にはチョンに世話になった白血病患者が列を作って見送ったのです。そして、皆、マスクを外しました。
チョンに敬意を払ったのでしょう。
そして同時に、「私も共犯者だ」という意思表示をしたのだと思います。
ダブルミーニングですね。
このドラマの深層は、「イエスが信徒を増やす話」だったようです。
追記Ⅴ ( 映画「終戦のエンペラー」 )
2020/10/19 16:38 by さくらんぼ
映画「終戦のエンペラー」でしたか、トミー・リー・ジョーンズさん扮するマッカーサー元帥が初めて来日した時、ジープで走る両側には、日本人の警備員が全員背を向けて立ち警備していました。
マッカーサーが不思議に思って側近に尋ねると、「日本人は敬意を持つ者を直接見るのは失礼だと考える」みたいなことを話ました。まだ神であられた昭和天皇を直接見ないのと同じ理屈でしょう。
つまり「聖なるものを俗なる自分が穢してはいけない」と考えるのではないでしょうか。謙遜の美学にも通じるのでしょう。
そこから考えると、映画「薬の神じゃない!」のラストでマスクを外す「共犯宣言」には、異文化の香りもしました。
ちなみに、
マスクの効能は、新型コロナウイルスに置いては、①他人からの感染予防より、他人への感染予防という考えが日本では主流ですが、ニュースや映画で見る限り、②諸外国は他人からの感染予防が主流のようですね。
②ならば、人前でマスクをするのは失礼になるかもしれません。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)