#ネタバレ 映画「千と千尋の神隠し」
「千と千尋の神隠し」
2001年作品
自分の足跡でこそ自分が分かる
2014/9/2 21:56 by さくらんぼ (修正あり)
( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
この映画のレビューも過去に書いた気がするのですが、さがしても見つかりませんでした。
とりあえず、ここに追記だけは、忘れぬうちに書いておきます。ご容赦下さい。
今さらですが、この映画の主題は「アイデンティティ」だったのかもしれません。いわゆる「自分探し」です。
この映画は「人生はすべて自分探しの旅」だと言っているようです。自分の足跡でこそ自分が分かると。
つまり人生そのものが、学業も、遊びも、仕事も、日常生活すべてが自分探しの手段であるから、かならずしも学校を卒業するまでに、独りで考えて、自分探しを完了させる必要はない、と言っているのだと思います。
昔から「働かざる者食うべからず」とか言う通り、アイデンティティなどという能書きを垂れる前に、エイヤッと人生に飛び込んで、まずは自分の食いぶちを稼ぎなさいと。
そうしているうちには、それはイヤでも見つかると。その思いが、千が湯屋で涙とともに食べる塩にぎりのシーンに込められています。
千尋が千になった(就職してネームが変化する)ことも、千が湯屋で意外に大健闘し人気者になるのも、千が初恋をするのも、ノーフェイスのカオナシの存在も、カオナシの救済や、ハクへの献身も、豚にされた両親を探す話(インドあたりの昔ばなしとも関係あるのか)も、みんな、アイデンティティをモチーフとしたエピソードだったのかもしれません。
千尋は強制的に、一人、だいきらいな湯屋に放り込まれ、人にもまれ、苦悩の中から、自らのアイデンティティを発掘したのです。頭だけで考えるのではなく、涙の中、全身で行動しながら。
最初はアウディという羊水の中にいて、完全受動形の子供だった千尋が、後には能動的な、他の模範生になったのですね。
ところで、カオナシが付けていたのは「おめん」なのか「かめん」なのか。そう言われると、はて、ん…。
追記Ⅱ( カオナシ=千尋のエゴ )
2014/9/4 16:35 by さくらんぼ
カオナシの話が出たついでに、カオナシとはいったい何だったのか、についても推理しておきます。
一口で言うなら「カオナシ=千尋のエゴ」だと思います。
だれでも、子供の頃はエゴの塊です。
オモチャが欲しいと、わ~わ~泣いて、ダダをこねますね。
それから、アウディのなかでゴロゴロしていた千尋もまだ子供です。あれは受動的な生きざまです。そして商売で言うところのお客様状態。つまり神様状態です。
そんな千尋が湯屋で強制就職のスタートを切ります。
その後の湯屋の千尋は、大人に脱皮しようとして、もがいている姿です。
この場合のエゴの反対語が何かは、適当なものが、すぐに思い浮かびませんが、仮に「win-win」とでもしておきます。
働いてお金を稼ぐというのは、能動的に生きるという事です。商売で言うところの店員状態。つまり神様にご奉仕する役目になります。
でも、油断すると、だれでも、ふと、心の中に封印していたエゴが顔を出します。
千尋たちは神様と間違えて、エゴ(カオナシ)に優しくしてしまいました。
それで、エゴが、だんだんと、つけあがったんですね。本当は律する必要があったのに。
だから、エゴ(カオナシ)と千尋は運命の対決をすることになるんです。
もし負けたら、子供に逆戻りです。
勝てば大人のメンタルを手に入れることができます。あれは、そう言う戦いだと思いました。
これは、だれもが、大人になる段階で、一度はしなければならない神聖なバトルです。
この映画はたくさんエピソードを詰め込みすぎて4時間ぐらいになってしまったものを、カオナシのエピソードを中心にカットして短縮したとか言う話を聞きました。
それくらい、カオナシが重要な登場人物だったのも、これでうなずけます。
だから、カオナシに顔が無いのは、もし顔を作るのなら千尋の顔にしなければならなくなると、そんな理由もあったからでしょう。
追記Ⅲ ( 「いけいけどんどん」 )
2022/1/9 10:31 by さくらんぼ
映画「千と千尋の神隠し」がTV放送されていたので、最初の部分だけを観ました。
千尋が後部座席で横になっているのは胎児の記号とか、どこかで読んだことがありますが、以前から気になっていたのは両親に対する違和感です。二人とも自信満々で「私がルールブックだ」みたいに見えます。そう言えば映画「ベスト・キッド」の最初にも引っ越しシーンがあって、子どもは不機嫌でも親は自信満々でした。
私も引っ越しの経験が出来て分かりましたが、だれでも引っ越すまでは紆余曲折があるのだと思います。そして、その結論としての引っ越し日なので、リーダーは「やるっきゃない」の心境になるのだと思いました。
ある意味「躁状態」とも言えるのでしょう。だから、外野から見ると違和感があって当然なのかもしれません。
そして、同時にこれは、バブル期の「いけいけどんどん」的な大人たちの記号でもあったのでしょう。
やがて、彼らの乗ったクルマは右折します。片道一車線、交差点ではないので、後続車の追突を心配しながら道路の中央に止まり、対向車の間隙をぬって、正面衝突の心配もしながら右折しなければならず、運転ライセンスを持っている人に微かな不快感を与える演出だったのかもしれません。左折とは大変違います。
そして、右折するとすぐに、道路の脇に押しやられ、放置された古い鳥居(結界)と、ゴミのように崩れ置かれた、たくさんの祠が写ります。
本来、あの鳥居はわき道をまたぐように在ったものでしょう。この結界から先は神様の領分だったのです。なのに、人間はそれを守るどころか、壊し、ゴミのように放置して、バブル期の開発を進めたのでしょう。これに畏れを感じたのは敏感な子供だけで、自信満々の大人たちは気にもしませんでした。
半世紀前、私が通っていた中学校が校舎を建て替えるとき、基礎工事を始めたら、地面の下から頭蓋骨を含めた人骨が、無数に見つかった事があります。昔の事でしたから、塀で隠すわけでもなく、生徒にも丸見え。生徒もあの放置された祠を見つめた大人のように冷めていました。近所に古墳やお寺があったので、校庭から人骨が出ても不思議ではありません。
追記Ⅳ ( 子どもに託す夢 )
2022/1/9 10:36 by さくらんぼ
やがて、神を畏れることを知り、神と共存することを学んだ子どもが、親を解放します。
そんな未来の使命のためにも、子どもたちには逞しく育って欲しい。この作品、そんな監督の願いもあったのでしょうか。
追記Ⅴ ( 千尋と対になる「湯婆婆の子供」 )
2022/1/9 10:45 by さくらんぼ
どなたかも仰っていましたが、湯婆婆の子供は「引きこもり」の記号のようですね。
チラシの解説でも引きこもりに言及していますが、ここに描かれていたのかもしれません。
追記Ⅵ ( 「輪廻転生」 )
2022/1/11 10:00 by さくらんぼ
映画の終わり、千が湯屋を後にするとき、湯屋の人たちは千との別れを惜しんで見送ってくれましたが、しばらく歩くと、3人の記憶から湯屋での出来事は消えてしまいます。そこに訪れる一抹の寂しさ。
あのシーンに、ふと「輪廻転生」を思いました。そう言えばこの作品には、主題歌も含めて「死」の影があります。
映画の最初、千たちが乘っていた車はアウディでした。昔読んだレビューには、「アウディは彼らの階級の記号だ」という趣旨の話が書かれていましたが、最近ふと、アウディの会社のマークの「〇」を使うためだったのではないのかとも思ったのです。「クルマが子宮であり、千は羊水に浮かんでいる子どもだ」との話は昔からありますので、「〇」は「子宮」の記号だったのかもしれないのです。
そう思うと、湯屋で丸い湯船につかる神様たちの意味も、人間の行いに疲れ果てた神様たちが、生まれ変わるための子宮と羊水だったのかもしれません。
追記Ⅶ ( 千人針 )
2022/1/14 10:42 by さくらんぼ
なぜ「豚」が登場したのかと言えば、劇中にも似たセリフが出て来ましたが、「働かざる者食うべからず」の思想が元に在り、豚はそこから最も遠い存在だとしたためでしょう。ちなみに「豚」(豚に真珠)も「働かざる者食うべからず」も、聖書の言葉のはずです。
千が豚になった両親を見つけられたのは、湯婆場との勝負に勝ったのは、銭婆が千に贈った手編みのヘアゴム(お守り)のせいだと思います。あのゴムには、戦時中の千人針のような魔法が込められていたのでしょう。ラストに、記憶をなくした千の頭にあるヘアゴムが一瞬光りました。監督からの何らかのメッセージの可能性があります。
あの後、何年かの後にでも、ふと千が記憶を取り戻したとします。
千は怯えるでしょうか。
私は、最初は驚くでしょうが、やがて、懐かしい良い思い出として宝物にするはずです。辛いこともありましたが、それ以上に良い思い出もあり、それが、自分を成長させてくれたことを悟るからです。
私も在職中は仕事が辛いとこぼしてばかりいましたが、しかし、それ以上に得るものがあったと、今では思っていますから。
そして、ご迷惑をおかけすることも多々ありましたが、古巣である「ぴあ映画生活」さんに皆様と一緒に参加できたことにも感謝しています。
そして、今は「note」様に参加させていただいている事にも。
(追記Ⅷ) 2022.9.8 ( お借りした画像は )
キーワード「おむすび」でご縁がありました。グラデーションが見事ですね。少し上下しました。ありがとうございました。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)