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自律神経と消化器症状

自律神経と消化器症状:

出典:「自律神経と消化器症状.pdf」 本郷道夫 (2021)


内容のまとめ

はじめに: 20世紀初頭からの消化管生理学研究の歴史を概説し、神経系と消化管ホルモンによる消化管機能制御のメカニズム解明が進展したことを説明。近年注目されている脳腸相関、腸内環境、腸内細菌叢との関連性について触れ、本稿における論点を提示する。

1. 腸管機能制御系: 腸管機能制御に関わる神経系(ENS、ANS、CNS)と、神経内分泌系、免疫系による制御メカニズムについて説明。これらのシステムが相互に作用し、自律的に機能することから「自律神経系」と総称されることがある点を指摘。腸内環境、外的環境変化への反応システムについても言及する。

2. 腸管機能制御系の変調と兆候および症状: 消化器症状の原因として、消化管自体の器質的障害と消化管機能制御機構の変調の二つを提示。消化管内環境、外的社会環境の影響にも触れ、症状発現経路における機能変調の重要性を論じる。

3. 腸管機能制御系変調の原因: 末梢性: 腸管内容物の物理化学的性質による内臓知覚神経、神経内分泌系への影響について説明。消化器症状スクリーニングにおける内視鏡検査の重要性、器質的病変の有無による診断の進め方について解説する。脳腸相関、腸脳相関研究の進展、サイトカインや神経伝達物質の役割にも触れる。

4. 腸管機能制御系変調の原因: 中枢性: 中枢神経系、特に視床下部と扁桃体の機能変調と腸管機能制御の関係について解説。腸内細菌叢による腸管内環境変化、粘膜上皮の炎症反応、自律神経求心路、消化管ホルモン、炎症性サイトカインを介した脳機能変化、消化器症状発現のメカニズムを説明。leaky gut と呼ばれる腸管粘膜透過性の亢進についても解説する。(約80字)

5. 腸管機能制御系変調の原因: 情動要因: 心理社会情動ストレスが自律神経系、HPA軸を介して腸管機能に与える影響について解説。視床下部からのCRH分泌、下垂体からのACTH分泌、副腎皮質からのコルチゾル分泌、交感神経系活性化による副腎髄質からのカテコラミン分泌といった一連の流れと、消化管機能変調との関連性を説明する。腸管微細炎症と抑うつ症状の関係、便秘との関連性についても触れる。

6. 腸管機能制御系変調: 総括的視点: 機能性消化管障害の症状が複数の臓器に跨がること(症状重複)、主たる症状が変化すること(症状シフト)について、そのメカニズムを解説。神経経路以外の情報伝達経路として、消化管ホルモン、炎症性サイトカイン、神経伝達物質の役割、臓器特異性のない症状発現との関連性を説明。腸内細菌群と粘膜上皮炎症の関連性についても強調する。

おわりに: 脳腸相関の観点から腸管機能変調をまとめ、壁在神経障害、自律神経系変性による腸管運動異常、炎症や神経伝達物質による制御系変調、心理情動による変調など、様々なスペクトラムが存在することを示す。腸内細菌叢由来の微細炎症、leaky gut の重要性を再強調し、今後の研究発展への期待を述べる。

その他

この論文では、消化器症状と自律神経の関係について、最新の研究に基づいて解説しています。

●従来、消化器症状は、消化管自身の病気や、脳からの指令を伝える自律神経の乱れによって起こると考えられてきました。

●近年の研究では、腸内細菌叢(腸内フローラ)の異常が、腸の粘膜に軽い炎症を起こし、その情報が神経を介して脳に伝わることで、消化器症状を引き起こす可能性が示唆されています。腸内細菌叢の異常は、リーキーガットと呼ばれる状態を引き起こし、腸管の透過性を高めて炎症を悪化させる可能性があります。このような脳と腸の間の相互作用は、「脳腸相関」あるいは「腸脳相関」と呼ばれ、近年注目されています。

●また、心理的なストレスも、自律神経やホルモンを介して腸の働きに影響を与え、消化器症状を引き起こす可能性があります。

●さらに、腸から脳への情報伝達には、神経経路だけでなく、消化管ホルモン、炎症性サイトカイン、神経伝達物質なども関与していることが分かっています。これらの物質は、特定の臓器だけでなく、広範囲に作用するため、複数の消化器症状が現れたり、症状が変わったりすることがあります。

腸内細菌叢(腸内フローラ)は、機能性消化器疾患の症状発現に大きく関与していることが近年の研究で明らかになってきています。 具体的には、腸内細菌叢の異常によって腸管内環境が変化し、腸管粘膜に微細な炎症(微細炎症)が生じることが、機能性消化器疾患の症状を引き起こす要因となると考えられています。

腸内細菌叢の異常と機能性消化器疾患の関係は、脳腸相関あるいは腸脳相関という概念を通して理解されます。 腸内細菌叢の異常によって生じた腸管粘膜の微細炎症は、炎症性サイトカイン、消化管ホルモン、神経伝達物質などを介して、腸から脳へ情報を伝達します。 その結果、脳機能に変化が生じ、消化器症状の発現につながると考えられています。

さらに、腸内細菌叢の異常は、リーキーガットと呼ばれる状態を引き起こす可能性があります。 リーキーガットとは、腸管粘膜の透過性が亢進し、本来体内に入らないはずの物質が腸管から漏れ出てしまう状態です。リーキーガットの状態になると、炎症反応がさらに悪化し、腸管からの情報伝達が過剰になることで、消化器症状が悪化する可能性があります。

腸内細菌叢と機能性消化器疾患の関係における重要なポイント:

  • 腸内細菌叢の異常は、腸管粘膜に微細炎症を引き起こす。

  • 腸管粘膜の微細炎症は、脳腸相関を介して脳機能に影響を与え、消化器症状を引き起こす。

  • 腸内細菌叢の異常は、リーキーガットを引き起こし、炎症を悪化させる可能性がある。


腸管機能制御系変調の原因:末梢性と中枢性の違い

腸管機能制御系変調の原因として、末梢性と中枢性の違いは、変調の起点となる場所の違いとして理解できます。

末梢性

末梢性の腸管機能制御系変調は、腸管自体または腸管に近接する部位、つまり末梢から始まる変調を指します。具体的には、以下のような原因が挙げられます。

  • 腸管内容物の物理化学的性状の変化: 例えば、食事内容の変化や特定の食品の摂取によって、腸管内の化学物質や栄養バランスが変化し、内臓知覚神経や神経内分泌系に影響を与えることがあります。

  • 腸管粘膜の炎症: 感染性腸炎や炎症性腸疾患などによって腸管粘膜に炎症が生じると、炎症性サイトカインが放出され、これが神経系を刺激して腸管機能に影響を与えることがあります。

  • 腸内細菌叢の異常: 腸内細菌叢のバランスが崩れると、腸管内の環境が変化し、粘膜バリア機能の低下(リーキーガット)や微細炎症を引き起こす可能性があります。その結果、神経系の過剰反応、内臓知覚過敏、異知覚発生などが誘発されることがあります。

  • パーキンソン病などの神経変性疾患: αシヌクレインの蓄積に代表される異常は、腸管上皮の微細炎症を起点とする可能性が示唆されています。

これらの末梢性の要因は、神経系(内臓知覚神経、神経内分泌系)、免疫系、サイトカインなどを介して中枢神経系に情報を伝達し、脳腸相関を引き起こします。その結果、消化器症状(腹痛、下痢、便秘など)が現れると考えられています。

中枢性

中枢性の腸管機能制御系変調は、脳や脊髄などの中枢神経系から始まる変調を指します。具体的には、以下のような原因が考えられます。

  • 心理社会情動ストレス: ストレスを感じると、視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌、そして副腎皮質からのコルチゾル分泌を促します。同時に、交感神経系も活性化し、副腎髄質からのカテコラミン分泌が促進されます。これらのホルモンは、消化管機能に様々な影響を与えます。

  • 情動要因: 心理社会情動ストレスと同様に、視床下部-下垂体-副腎軸や自律神経系を介して腸管機能に影響を与えます。特に、便秘は抑うつ症状との強い関連性が示唆されています。

  • 中枢神経系の機能変調: 辺縁系(視床下部、扁桃体など)の機能異常に伴い、腸管機能にも影響が出ることがあります。

これらの要因により、自律神経系やHPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)を介して腸管機能が変化し、消化器症状が現れると考えられます。

脳腸相関における腸内細菌叢の役割

腸内細菌叢は、脳腸相関において重要な役割を果たしています。腸内細菌叢は、腸管内環境の変化をもたらし、それが神経系や免疫系を介して脳に伝達されることで、脳機能や行動に影響を与えることが示唆されています。

具体的には、腸内細菌叢の異常は腸管粘膜に微細な炎症(微細炎症)を引き起こし、炎症性サイトカイン、消化管ホルモン、神経伝達物質などの分泌を変化させます。これらの物質は、腸から脳への情報伝達を担っており、その結果、脳機能に変化が生じ、気分、食欲、睡眠などにも影響を及ぼす可能性があります。

さらに、腸内細菌叢は、腸管粘膜のバリア機能を維持する役割も担っています。腸内細菌叢のバランスが崩れると、このバリア機能が低下し、リーキーガットと呼ばれる状態になることがあります。リーキーガットは、腸管の透過性を高め、本来体内に入らないはずの物質が腸管から漏れ出てしまう状態です。その結果、炎症反応が悪化し、腸から脳への情報伝達が過剰になることで、脳腸相関のバランスが崩れ、消化器症状や精神症状が悪化する可能性があります。

腸内細菌叢と脳腸相関における重要なポイント

  • 腸内細菌叢は、腸管内環境に影響を与え、神経系、免疫系、内分泌系を介して脳と情報をやり取りしています。

  • 腸内細菌叢の異常は、腸管粘膜の炎症、バリア機能の低下、神経伝達物質の分泌異常などを引き起こし、脳腸相関のバランスを崩す可能性があります。

  • その結果、消化器症状だけでなく、気分障害、自閉症、パーキンソン病などの神経疾患にも影響を与える可能性が示唆されています。

自律神経は、脳からの指令を伝える役割を担い、消化管の運動や分泌をコントロールしています。腸内環境の変化は、腸管粘膜に微細な炎症を引き起こし、炎症性サイトカインなどが分泌されます。 これらの物質は自律神経系に作用し、脳に情報を伝達することで、消化器症状(腹痛、下痢、便秘など)を引き起こすと考えられています。 また、ストレスなどの情動要因も、自律神経系を介して腸管機能に影響を及ぼし、消化器症状を引き起こす可能性があります。 つまり、消化器症状は、自律神経系、腸内環境、そして心理的ストレスなどが複雑に関係して起こると考えられます。

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