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ルバーイヤートは末法思想だった?
『ルバーイヤート』オマル・ハイヤーム 著、岡田 恵美子 編訳 (平凡社ライブラリー)
盃に酒をみたし、この世を天国にするがよい、あの世で天国に行けるかどうか分からないのだから。―十一・十二世紀のペルシアに生きた科学者にして、虚無と享楽の詩人ハイヤーム。原語からの正確で平易かつ香り高い新訳に加えて、「人間は土から創られ土になる」など、私たちと同じようでしかし違うその世界観を解説、名高い四行詩を細かいところまで味わう一冊。
目次
第1章 創造、この不可解なもの
第2章 生きる苦しみ
第3章 太初からの運命
第4章 廻る天輪
第5章 土から土へ
第6章 なるようになるさ
第7章 無
第8章 一瞬を知ろう
第1章 創造、この不可解なもの
すでにKindleで読んでいたのだが、こちらは絵入りということで借りた。翻訳者も違うので多少訳も違うのだろう。テーマごとに詩が分けられていて読みやすくなっているのか。最初に説明コラムがあり、筆者とイラン人の親友との文化の違いについて。「第1章 創造、この不可解なもの」は浅草で日本の鏡餅を観て、それが宇宙のヴィジョンなのか?と訪ねてきたことろから、ゾロアスター教の宇宙論から話を始めている。「ルバイヤート」の中にはゾロアスター教の影響があるという。そう言えばKindleの方は英訳からの翻訳だったが、こちらはペルシア語からの翻訳のようだ。
1
チューリップの頬のよう、あでやかな糸杉のように、
どれほどの姿が美しかろうと、
土の舞台に、どうして久遠の絵師は、
このわたしを飾りたてたのか。
第2章 生きる苦しみ
この本の特徴は最初にイラン人の風習についてのコラムがあることだった。イマームザーデは女性が人生の苦しみを訴える礼拝堂なのだが、白い布に覆われた感じが神社のおみくじのように思ったという。イランの労働者たちはモスクがないならせめて詩人の墓で祈りたいというのだった。日本で一番有名な詩人と聞かれて芭蕉と答えたそうだ。ハイヤームは神を信じない科学者(数学者・天文学者)でその不条理を四行詩で詠んだという。ナイス!
13
いざ、青春のめぐりくるこの日、
酒をのもう、酒こそわが喜び。
その酒が苦くとも、とがめるな、
わたしの生命だから苦いのだ。
酒はイスラームでは禁じられるが、それなら何故神はそれを造ったのかという疑問から、苦さという世界を導き出した詩だという。ハイヤームの酒は、苦いのだ。
第3章 太初からの運命
モスクの天井は幾何学模様で、それは偶像崇拝を禁じるからだ。そのモスクの天井を観て学習旅行にイランのモスクを見て、あまりにも美しさに生徒が感激して泣き出してしまったという。そのモスクの僧侶が近づいて理由を話すと神を見たのですと言って祈ってくれたそうだ。モスクの幾何学模様で思い出すのはエッシャーかなと思う不信心者だった。
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21
すべてのことは天の書に記されて、
善きも悪しきも綴った筆は、それから頑なにうごこうとしない。
せねばならぬことはすべて太初にさだまり、
励んだり嘆いたりすることは愚かなこと。
第4章 廻る天輪
留学時代に「青い鎌で殺られた」という話が拡がりその意味がよくわからなかったという。「青い鎌」は神が持っている「天輪」というほどの意味で、それによって人の運命は決まっているという。不慮の事故死で若い命が失われるとそう喩えるのだという。
そのような死はロマンス叙事詩にも多く、それを元にした詩も多いという。
29
ああ、若い日々の書は早くも閉じ、
人生の歓喜の春も過ぎてしまった。
青春という愉悦(よろこび)の鳥は、
いつ来て、いつ飛び去ったのであろう。
第5章 土から土へ
イランの土は砂漠の砂のイメージで清浄なものだという。日本の泥とは違うのだ。春になると春の砂漠で花見のようにピクニックをするという。土から壺が作られるのも死んだ人が焼かれて壺になるイメージだという。そこに酒や水を満たして飲むのだ。
49
地表の土砂のひとつひとつの粒子が、
かつては、輝く陽の君の頬、金星の美女の額であった。
袖にかかる砂塵をやさしく払うがよい、
それもまた、はかない女の頬であった。
第6章 なるようになるさ
この本の編集した現代イラン人作家サーダク・ヘダーヤドはパリに留学して小説家としてデビューしたがイランでは散文よりも詩が読まれていたのでハイヤームの詩を編集して、サブタイトルを付けまとめたという。
だから、サーダク・ヘダーヤトの思想性が出ているのだと思う。彼はハイヤームの詩から人生観を得ていたのかもしれない。しかし、かれはイランで暮らすのに絶望してパリに戻りガス自殺したという。だから厭世的な詩が多いのかもしれない。
63
美酒なしに生きていられぬこの身、
酒なしにはこの身の重みに耐えられぬ。
酌人(サーキー)がもう一杯とすすめるあの瞬間の、
おれは奴隷だ、ああ悩ましい
第7章 無
イランでは春分の日が新年で、それから13日間は忌み日とされ、外に出るようにするのだという。そして、砂漠へ散歩しに出かけるのだが無限に広がる無の世界なのだという。日本で見るような緑の山々や花はない世界。そこに神を感じるのだという。
73
おお、何も知らぬ者よ!形あるものは無、
九重の空のひろがりも無なのだ。
楽しもう、この生と死の宿で!
この一瞬の生命も、また無なのだ。
第8章 一瞬を知ろう
イランでは音楽は禁止されているが詩の朗読では古楽器が伴奏としてかき鳴らされ会場を盛り上げるという。そして、興奮の中コール&レスポンスとなるのだそうだ。黒人の教会と一緒だな。そううか日本の琵琶法師とかの演奏もそうだったのかもしれない。
78
迷いの道から信仰までは、ただの一瞬、
疑惑の世界から確信までは、ただの一瞬、
かくも尊い一瞬を楽しむようにせよ、
この一瞬のうちにこそ、われらの人生の結晶がある。