新春特集号はお得か?
『短歌 2023年1月号』
文芸誌の新年号も新春創作大会になるのだがほとんどお気に入りの作家以外に読んだことがなかった。短歌雑誌も最初の驚きは133歌人がいて、その中で自分が好きなのはほとんど一人か二人。ざっと目を通しても初見ではわからない。好きな歌人をじっくり読む感じでいいのかなと思い、穂村弘をじっくり読んでみた。
「尾や耳や鼻挟まれて泣いている」の出だし。穂村弘の短歌はわかりやすさだ。それでいて最初の入りが衝撃的で動物が虐待されているのかと思ったら、結句に「電車のドアに」。人間だった。
「アメリカンクラッカー」がすぐに思い出せなくて。クリスマスの時にパン!と鳴らす「クラッカー」かと思ったが、「あった」「あった」。睾丸のような玉二つを紐に繋いでぶち当てるだけの代物。無心にやっていたよな。「痛い」という思い出はなかったけど。これが痛いとなるのはかなり下手なんでは?
「六十歳になっていた」も面白いな。穂村弘も六十歳。
「犀星」は室生犀星だろうか?「愛敬」と「敬う」という方の漢字をつかっているから当時の詩人たちはそういう関係があったのか?犀星というと萩原朔太郎とか白秋とか。室生犀星『我が愛する詩人の伝記』を思い出す。
他にも芥川龍之介とかも交流があったと何かの本に出てきたな。最近読みたいと思ったのは富岡多恵子『室生犀星』。繋がりが想像できなかった。
「日本一ほほべに濃い街」。これはどこか想像するのが楽しい(それを狙っている)。愛敬ある街だから渋谷はパス。吉祥寺とか。イメージとして。横浜でもいいけど。ツンツンしてそう。橋からだと宇治とか(『源氏物語』のイメージ)?
「手裏剣」の歌も架空の場所が「かがやき」なんだろう。すでに消滅した彼岸。幼い頃かもしれないし、江戸時代かもしれない。
「大辻さん」が「大江さん」に空目。次の「江戸さん」の錯覚だろうか?多分歌人仲間なんだろうな?大辻隆弘と江戸雪。歌会なのかな?「白兎」は「いなばの白兎」かと思うが「はくと」と読ませるのは何だろう?「スーパー白兎」(ネット検索で電車が出てきた)かも。
「豹は」「黒豹」か?「夜の珈琲」が味わい深い。
「ハロウィン」の歌。こういう細かいことはキリスト者ではないからわからないがグーグルによると「ハロウィン」の後が「万聖節」でキリスト教の行事なのだ。その前の「ハロウィン」はケルト神話の祭りで邪教といいうことだ。つまり魔女は「万聖節」と言ってはいけない。キリスト教の門下に下ったのか!ということだろうか?
総題の「かえらばや」は帰っていくことかと思ったら変わらなきゃという意味があるのかもしれない。一つ謎が解けた!室生犀星の「小景異情」という詩の最後が「遠きみやこにかへらばや」だった。
「特別企画新春誌上歌会2023」
正月は歌会というのはよくあるのだろうが、これは面白かった。実際に自分も参加させて見た。歌はつくらなかったが。
今流行りの歌がどういう傾向なのか、プロはどこに注目するのか伺える。参加者は大下一真(1948)、小島ゆかり(1956)、東直子(1963)、田村元(1977)、佐佐木定綱(1986)、道兼はな(?)。()内は生まれ年である。最後の道兼はなはわからなかったが、一番若い歌人であろう。題詠「明」一首、自由詠一首、一人二首提出、三首選。
1はわかりやすい。でもどこか団体旅行でもあるような。中年以上と見た。とりあえず△。
2は表現が上手い歌だと思う。これは「明」という題詠なんだろうな。○か?道兼、大下、小島、佐佐木、東が選。つまり五点満点ということだ。田村元の歌。
3は「コンテンポラリー」がおしゃれな歌だ。「コンテンポラリー・ジャズ」とかあるし、でも意味がわからない。モダンということかな?△。田村選。コンテンポラリーはダンスだった。銀杏の葉が二つ重なって落ちる様のような。解釈を聞くと上手い表現だと思う。若い人だな。
4は『源氏物語』で雪が落ちてくる様子を白髪に喩えた歌があったのを連想さす。「もう会えぬ」という言葉からお年を召した方だと。旧仮名遣いもベテラン歌人のにおいがする。△。道兼、東、選。気配りか?
5は不思議ちゃんだな。若い人か?アドバルーンが突然現れる。なんかその異様さ。スターリンの映画を思い出した。☓。まあ、☓にするにも勇気がいるのだがよくわからんかった。小島、田村、選。驚きがある歌だから点が入ったのか?
「目つむりて」が寺山修司を連想させる。ベテラン歌人とみた。酒を飲みの歌。酒を飲まないので☓。道兼、大下、佐佐木、選。高得点だった。酒飲みが多いのか?
7は若い歌人だ。「明るい色のスープ」をうまい表現だと見るか?具体的なものの方がいいと思うが。短歌は多様に取れるほうがいいのかもしれない。△
8は一見若そうにみせて社会詠だから中年以上と見た。小島さんかな?☓
9「鴨臭い」がなんか上手い表現のような。旧仮名遣いのベテラン歌人。○かな。大下選。
10また「トルソー」とかわからない言葉を使う若手歌人だろう。「コンテンポラリー」の人と同じ匂いがする。☓。佐佐木、東、選。若手には受ける歌なんだな。
11夜学生なのか?ベテラン歌人っぽい。けっこういい歌だと思うが書生臭いかもしれない。△
12「かえるで」がようわからん。「帰るでー」ということかな。焚き火で芋焼くがいいかもしれない。△。小島、田村、選
選んだのは2と9。もう一つだったら11かな。若い歌人の言葉はわからないのが多い。3は道兼はなだった。
9は小島ゆかり。「家鴨臭い」が秀逸だと。
5は東直子。アドバルーンがよくわからないという意見あり。何かの儀式で鳩を放つということとアドバルーンの視点移動ということだった。トリッキーな短歌だ。東直子と言われると納得するな。
10「トルソー」も道兼だった。オジサン泣かせの歌人だった。でも佐佐木もわからないと言っていた。トルソーがマネキンだとわかると味わい深い。おしゃれな歌だよな。
12「かえるで」はカエデの古名だった。札はお札。大下の歌。
1は佐佐木の歌。中年でもなかった。一行は先輩歌人の後にの意味だという。わかりにくい。
7は東直子。ポップな感じなんだろうな。東直子だと納得がいく。
8は大下だった。ベテランだとは思ったが前半がロマンチック過ぎる。これは説話で食べ物をウサギだけ何も持ってこなくて自分を焼いて食べて下さいという自己犠牲を現しているのだと。むずかし過ぎ。
11は佐佐木。
6は酒好きの田村。その歌ですぐわかってしまうという。それで若手の票を集めた?
2も田村だった。「引っこ抜く」が斬新な表現。だいたい「スイッチを切る」ぐらいは言えるのだが、「引っこ抜く」は「正月から日常という」らしい表現。東直子は読みが素晴らしく、機械の痛みと人間の痛みを同時に表現していると。
その他感想
歌壇時評。越田勇俊の「散逸について」はネット歌壇が流行りだが記録ということで散逸していく消費文化の中で中世の和歌の勅撰集のようなものが出来ないかと。『ホスト万葉集』あたりがそのヒントになるだろうと。そういえば『平成万葉集』という番組で短歌に興味を持ったな。「挽歌の華」は春日井健。「悲しみの歌びとたち」近藤芳美に興味が持てた。
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