伊藤比呂美が訳すとヒップホップになる
『新訳 説経節』伊藤 比呂美 (著), 一ノ関 圭 (イラスト)(平凡社– 2015)
伊藤比呂美が惚れ抜いてきた「説経節」の世界。「小栗判官」「山椒大夫」など詩人の言葉を通して語られてきた人間たちの物語が蘇る
文字による物語ではなく口承で語り継がれた歌物語か。ラップのようでもあり、途中で物語の共通の道行きの歌が入るのはヒップホップ的。
道行きの語りがダジャレで地名をたどっていく(山手線ゲームみたいな歌)。そういう歌を聞いて行ったつもりになるのが当時の文学。「歌は世につれ世は歌につれ」みたいな。各物語もけっこう共通する筋があって、三男の三郎はいつも悪人で裁かれるとか恋文の解釈(ここはアドリブが利きそう)とか。ぜひ、伊藤比呂美の声で聞きたい。
伊藤比呂美の解説が素晴らしい。
「そうなんです。説経節の女たちはみんな私だった」「しんとく取って肩に掛け(病気になったしんとく丸を担いで乙姫は彼の再生の為に立ち上がる)」。
「山椒大夫」の安寿は勝ち気な姉さまで、鴎外や吉田修一の安寿とは違う。
厨子王を逃がすのも鎌を持って軟弱な弟、厨子王に斬りかかり、チャンチャンと鎌を交叉させてから、別れの決意を示した。ただ別れたり入水したりしたのではない。だから厨子王も姉の精神を受け継いで、拷問も黙秘を貫いて拷問死したのである。あっぱれ!「妹の力」。と言われているものなんだろうけど手柄は常に男の方にあるのです。縁の下で苦労するのは女たち。(2020/10/11)