文芸スキャンダルも満載の松本清張ジャーナル
『新装版 昭和史発掘 (2) 』松本清張(文春文庫)
第一巻以上に面白かった。「潤一郎と春夫」谷崎潤一郎の妻千代を佐藤春夫に譲った話。新聞にもその報告が載るなど、石田純一の「不倫は文化だ!」のネタ元か。二人の著作を紐解きながら二人の作家の不倫劇に迫っていく。佐藤春夫と千代は一緒に風呂に入りながらもプラトニック・ラブだった。谷崎は芸者である千代の姉さんに惚れたのだが相手にされず姉から妹を進められて結婚する。千代は姉とは正反対の性格でその下の16歳の妹(『痴人の愛』のナオミのモデル)に手を出す。いまだったら逮捕されているぞ。谷崎も谷崎だ!
「三・一五共産党検挙」戦前の治安維持法下の共産党史なのだが面白い。表舞台には出てこないわけだが裁判の過程で逮捕者が共産党の思想や共産党史を述べた。傍聴人席は満席だったそうで。壊滅的な打撃を受けるわけだが、地下組織が出来ていて潜伏したとか。ただ逮捕された者の中に後に転向する大物党員がいたことも事実で、それはあまり詳しくは書かれていない。佐野学と鍋山貞親の転向については『吉本隆明1968』の「日本的な「転向」の本質」に詳しい。
「天理研究会事件」オウム真理教の裁判の前例のような。不敬罪で逮捕された大西愛次郎は天理教の分派だったが信者を集めて無視できない勢力となる。逮捕された様子は麻原が逮捕された状況と似ていて隠し部屋に財産を隠して潜んでいたとか。最初の裁判では精神異常が認められて保釈。それでも懲りずに二回目の逮捕で無期懲役。敗戦で釈放されるがそのあとも逮捕される。空襲にあっても天罰だと平然といられたとか。オウム裁判で死刑という極刑が行われたのは、「天理研究会事件」の前例があったからなのかもしれない。(2018/08/28)