
もう一つの『この世界の片隅に』の世界へ
『夕凪の街 桜の国』こうの史代 (双葉文庫– 2008)
昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、一人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか……、原爆とは何だったのか……。漫画アクション掲載時に大反響を呼んだ気鋭、こうの史代が描く渾身の問題作。『夕凪の街 桜の国』にて第9回手塚治虫文化賞新生賞・第8回文化庁メディア芸術祭大賞を受賞。
『夕凪の街』皆実(みなみ)のしゃべる広島弁が映画『この世界の片隅に』のすずさんと同じなんで、のんの声が聞こえてきてしまう漫画でした。これ映画化して、またのんの声優でやってくれないかなとも思ってしまいます。広島原爆の話だから結構需要があるのではないか?最後に皆実の姿が消えていくのは映画では難しいかもしれないです。漫画ならではの表現です(ここにこうの史代の「老荘思想」的なものが現れているような)。目が見えなくなり白紙のカットに言葉だけが流れていく。最後の余韻も漫画ならでのものです。こうの史代は表現者として確かなものがあります。怒りもちゃんと伝わってくる。
『桜の国』も良かった。こっちは広島から遠く離れて東京で生活する二人の親友物語。東京で生活するこうのさんが広島出身者だけど身内に原爆被害者もいなかったのを避けてきたけどそれに向き合った作品のようです。最初は東京の物語だから広島を感じさせないが、父が年取って認知症になる。父の広島への謎の訪問。過去に広島の原爆被害で妹が亡くなった父とそこで出会うのです。微妙に現在と過去の差別的な結婚問題が絡んでいく(井伏鱒二『黒い雨』を参考にしたのかもしれない)のも秀逸。
参考図書
『長い道』こうの史代
『この世界の片隅に』こうの史代