けっこう腹が立つ映画だったが良かった。
『過去負う者』(2023年/日本/125分)撮影・録音・脚本・編集・監督:舩橋淳 出演:辻井拓、久保寺淳、田口善央、紀那きりこ、峰あんり、満園雄太、みやたに、伊藤恵、小林なるみ、平井早紀
けっこうリアリティのある映画だった。役者が脚本通りのセリフではなく演技の中で即興で演じるというのは最初は素人ぽいと思っていたが、次第に映画に集中してしまった。それは役者が自身が映画の中のキャラに成りきっていたというより憑依していく感じだった。特に交通事故死のひき逃げで刑務所に入っていた人には感情移入してしまった。
それは自分がかつてトラックドライバーだったからだろう。同僚でも事故死させた人がいたが、かれはその後に仕事が出来ないで引きこもりになってしまった。交通事故の場合一瞬の気の緩みで人を殺めないとも限らない。特にトラックドライバーは急かされているように感じるから。はっきり言って事故は自己責任を取らされるのだ。あまり会社もケアーしてないと思う。いやいろいろ補償問題とか出来ない部分があるのかもしれない。特に事故死させた場合には。
映画の中で元受刑者たちが演劇療法みたいなものをやって観客に見せるのだが、それをファンタジーと言って責められるシーン。かなり熱くなった。客席と舞台では分断があったと思う。観客はいつでも傍観者であり、それを自身のこととして考えないのだ。その分断はどうしてあるのだろうと思った。想像力の欠如だろうな。観客側も役者が演じていたわけだが、どうしてそういう傍観者みたいなことが言えるのか腹が立った。事件を起こさない人はたまたま恵まれた位置にいるだけなのに当事者でなければ何でも言えるという態度がネットの炎上を見ているようだったのだ。
演劇療法とか演じているわけだから優等生的になると思うのだが、そこに意味があると思えないのは、社会が歪んでいたら更生なんて出来ないと思ってしまう。その歪んでいる社会に合わすことが更生と言われることなのだから。清掃に入る時に「やらせてもらいます」とか言うのが信じられなかった。人権のなさというか、彼等に人権はあるのだろうか?ほとんどの仕事がそういうことなのだが、それはやっぱ社会がおかしいのではないか?異常にお客様は神様意識の世の中になっていて、下に見る社会的構造が出来上がっているのが、舞台と観客席との討論に出ていたと思う。何様なんだと思ってしまった。お前らの家族が絶対事故を起こさないと言えるのか?かなり腹が立つ映画なんだけど、そういう分断社会なのだと思う。
今は退職したので嫌なストレスはないが、ほんとにストレス社会なんだよな。どうしてこんな社会になってしまったのかいつも思う。