『J・M・クッツェーと真実』くぼたのぞみ
J・M・クッツェー翻訳者によるクッツェーのガイド・ブック的な本だがクッツェーとの関係も面白い。それは著者がナカグロ(・)詩人と言っているように翻訳者になる前に詩を書いていて、最初は南アフリカの詩人の翻訳からスタートしてクッツェーを知ったという。クッツェーも小説家以前に詩人であった人でイギリスのモダニズム詩人やヨーロッパの浪漫派が好きだということで言葉に対してのこだわりが著者と通じるのかもしれない。それはクッツェーの出自がアフリカーンスの白人ということでイギリス(英語)に対しての複雑な感情があるのだ。
英語もアフリカーンスの英語で名前のクッツェー自体が発音がしにくかったりアフリカーンスの読みを確かめたりかなり苦労しているようだ。それも南アフリカが辺境にあり、辺境の文学としてポストコロニアルであるのは、サイードを通して大江健三郎との共通性も感じるが二人が対談した記憶がない。似たもの同士で仲が悪かったんだろうか?と考えてしまう(微妙な違いとか)。
著者の資料のデーターベース化とかも似ていると思う。あとベケットには鯨がいないという発言。大江健三郎の「空の怪物アグイー」は鯨じゃなかったっけ(カンガルーだった)。
二冊目の長編小説『その国の奥で』では、コンラッド『闇の奥』を踏まえて南アフリカの文芸警察の検閲制度を明らかにした本だという。これはぜひ読みたいと思った。あと『鉄の時代』を再読したいと思った。『少年時代・青年時代・サマータイム』の解説が勉強になった(最近読んでいたので)。