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樋口一葉の姿を伝える評伝
長谷川時雨『樋口一葉』(1918/婦人画報/『日本美人伝』)
長谷川時雨(はせがわしぐれ)は、明治から昭和期の劇作家、女性の地位向上の運動を率いた。この追悼評論でも樋口一葉の人や人間関係をドラマチックに日記や伝聞を元に構成している。
一葉を「蕗(ふき)の匂いと、あの苦味」と評する。一葉の面影を日記にある和歌で伝える。
「なみ風のありもあらずも何かせん
一葉(ひとは)のふねのうきよなりけり」
「うつせみのよにすねものといふなるは
つま子もたぬをいふや有らん」
また和歌の師匠中島歌子の言葉として、三宅花圃(日本で最初の女性作家で一葉と中島歌子の歌塾「萩の舎」に属した)を紫式部、一葉を清少納言に喩えている。
貧乏暮らしの生活で中での母のことや借金に奔走した姿も日記によって伝える。最後に一葉の恋愛や友人関係を伝えているのも興味深い。
特に半井桃水の恋物語は、
「もものさかりの人の名をおもいて、
ももの花さきてうつろふ池水の
ふかく君をしのぶころかな」
との日記の言葉。淡い恋愛は、桃水が妻のように言いふらすので、友人や歌の師匠に相談して、絶縁したこと。文筆には鬼神のような一葉も恋にはうぶなのである。