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思い出は美しすぎて

『地下: ある逃亡』トーマス・ベルンハルト (著),今井 敦 (訳)

自伝五部作の二作目。『原因』の続きで暗い寄宿生生活から貧民街の団地の食料品店で働くことになる。職安ではもっといい仕事を紹介してくれるのだがベルンハルトは最低限の仕事を求めてザルツブルクの明るいほうではなく貧民街の方へ行くのだ。そこの経営者である男から商売の方法を学び商人も悪くないと思うのだが、あるきっかけで音楽の道に進む。ギムナジウム時代は祖父によって孤独さを学んだが、ここでは人間関係を学び、やりたいことの方向性が見えてくる。人々とから学んだことが綿々と書かれていて感動的。薄い本だが読み応えがある。

存在の跡をたどること、自分の存在、ほかの人々の存在の跡をたどるというのが最初の思いつきだった。
(略)
自然の本質は、すべてが同じということなのだ。あばよ! どうだっておんなじことさ ・・・・・・・・・・・・。あの言葉が、繰り返し聞こえる彼の言葉が。それは彼の言葉であると同時に私の言葉でもあるのだけれど。私自身これまで、元気でな!すべてはおんなじことさ、



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