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完璧な円環よりも楕円文学論

後藤明生『カフカの迷宮: 悪夢の方法』電子書籍コレクション (アーリーバード・ブックス)

◉ザムザが変身した虫のは楕円形のゴキブリだった!?
カフカの小説を読むたびに、その世界が増殖していく。もちろんカフカの小説、テキストが増殖するわけではない。増殖するのは、わたしの中のカフカ世界だ——。小説とは「あらゆるジャンルとの混血=分裂によって無限に自己増殖する超ジャンルである」と定義し、『変身』『審判』『判決』『万里の長城』などの作品をアミダアクジ式に脱線しながら読み解いていく、エッセイ風カフカ論。1987年3月、岩波書店より刊行。

◉目次
第1章:認識の迷宮あるいは方法としての悪夢
第2章:「ズレ」と「笑い」の拡大装置
第3章:変身
第4章:カフカ言語
第5章:万里の長城
第6章:不可知への回路

この岩波書店から出た「作家の方法」シリーズは、先日亡くなった古井由吉『ムージル 観念のエロス』と共に買って読んだ。再読してみたら新たな発見が多くある。カフカの作品は読むたびに驚きに出会う古くならない文学だ。後藤明生はその秘密を自己を中心に描かれた完璧な円ではなく二つの支点に絶えず揺れ動きながら分裂と結合の原理を持った楕円の文学とする。『変身』の虫はまさに楕円の「ゴキブリ」(後藤明生は甲虫ではなくネバネバしたゴキブリだとする)の世界と家族の関係を描いた楕円文学は、「ズレ」と「笑い」を描いた。

「橋人間」は「メビウスの帯」状になって墜落し、「万里の長城」は「見えない指導部」の「工区分割方式」(官僚機構のような)によって作られたわけです。

と後藤明生は書く。そして『審判』のグルーバッハ夫人の言葉。

「この世界は何が起こるかしれないんですからね。」

グルーバッハ夫人の言葉は、一見"常識"です。しかしそれは。いわゆる「万一に備えて」という常識とは別のものです。「万一」という可能性=常識=因果律を超えた「未知」なる何ものかとの遭遇です。つまり、未知なる他者=見えない全体との遭遇です。

今の状態がコロナ・ウイルスに感染するかもしれず、ある日突然病気を発症し、監禁されたり、自由なのか不自由なのかわからない日々を送っている者は、カフカを読むと感じることあるかもしれない。(2020/03/06)



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