ブロッコリーとレボリューションの関係性
『新潮 2022年 02月号』
懐メロ路線と新人文学のせめぎあいだけど、一番興味を引いたのはいとうせいこうXジェイ・ルビン能『杜若』現代語訳(ジェイは英訳)。温故知新。
三島賞岡田利規『ブロッコリー・レボルーション』。純文学もエンタメ化しているような。二人称語りのサスペンス。すぐにでも映画になりそうなシンガポールの情景だけど登場人物はほとんど二人だけかも。閉じられている物語だった(語り手の内面世界)。それに比べて懐メロ小説の登場人物の多さよ。いまの小説はけっこう内向しているような
◆プレイバック/筒井康隆
筒井康隆作品の登場人物が病院のベッドにいる筒井康隆を見舞いするというメタフィクション。筒井康隆ファンなら読んで面白いと思う。「時をかける少女」 「富豪刑事 」「美藝公 」「旅のラゴス 」「文学部唯野教授 」「パプリカ 」「男性に都合のいい女性キャラ 」「小松左京 」「星新一 」「チャーリー・パーカー 」「筒井伸輔」etc.
海辺のキャンプ(100枚)/黒川創
連載小説だけれども短編連作という感じで、今回は三浦半島でキャンプをしたい娘とそれを見守る作家である父の私小説風な作品。作家である父の映画のシナリオがポシャったことが書いてあったのだが、途中まで干刈あがた『ウホッホ探検隊』だと思ったが映画がポシャったということなので違った。ただその後に干刈あがたに好意を寄せる文章があった。干刈あがたもシングル・マザーの小説を書いていた。
父娘の会話は、望まぬ妊娠ということで中絶の話になっていく。その過程でアニー・ノエルの『事件』の話をする。映画『あのこと』の原作で、ノーベル賞を取ったことで話題にしたのだろうか?そうなんだよな、中絶小説ってちょっと前までは多かったような気がする。
能十番 日英現代語訳 番外編二「杜若」いとうせいこうXジェイ・ルービン
『伊勢物語』の東下りで葦原業平が三河八橋で詠んだ「かきつばた」の和歌に由来する能。業平は「かきつばた」を五七五七七の頭に入れて詠んだ歌。
その言霊が杜若の精となって旅の僧侶に業平と藤原高子の悲恋を語る。そして、二人の衣装を着て舞うのだが、それで成仏したという内容。和歌からの二次創作なんだが良く出来ている。
平山周吉『小津安二郎』(連載十六)
小津が「毒ガス」兵器の特殊部隊に従軍した話が出てくる。藤枝静男の初期の短編集に『イベリット眼』という小説で毒ガス兵器を語っているという。
小津の志賀直哉の影響について『暗夜行路』のモチーフが見られる『東京暮色』や『東京物語』にオマージュ的シーンがあるという。その小津に対して野田高梧との対立があった。
ブロッコリー・レボリューション(140枚)/岡田利規
三島賞受賞作。二人称(きみ)で呼びかける語り手の脳内小説。フィリピンという異国情緒は映画的だが、登場人物がきみとフィリピンに誘った男レオテーぐらい。
語り手の脳内世界だから映像的だと思えた。そのまま映画のミステリーのようになるのかと期待したが。
イメージの世界で例えばフィリピンのニュースであったり東京オリンピックであったり。そして「ブロッコリー・レボリューション」という言葉が示す「レボリューション」の世界は、ネットやTVの向こう側だけにある夢想のような閉鎖空間だった。
きみだけが妄想を掻き立てる愛する存在なのだが、例えば筒井康隆も妄想小説だったが、筒井の作品の登場人物が作家のイメージを超えて現れてくる。それは筒井康隆がネット小説という実験的な作品の登場人物でもあったのだ。それは開かられた作品と言われる。