「千年の孤独」という『源氏物語』
『源氏物語 A・ウェイリー版4』紫式部 (著), 阿部 公彦 (その他), 藤井 貞和 (その他), アーサー ウェイリー (翻訳), 毬矢 まりえ (翻訳), & 1 その他
この第4巻には、いろいろおまけが付いていて、なにより感動するのが登場人物の系譜(関係図)が付いてくるのである。登場人物の関係が何よりもわかりにくいのが『源氏物語』なので、これは素晴らしい付録だと思う。帖の最初に関係図が付いているのは、他の本でもあるのだが、全体図についてはなかなかないのだ。それだけで一冊の本が出来るぐらいだった。
それに巻末の和歌一覧(藤井貞和監修、句読点や空白入りで意味が理解しやすいように表記されている。これは『万葉集』で折口信夫が口語として採用したやり方だ。)源氏物語の和歌は橋本治が言うように最も重要な手がかりなのである。その和歌だけを取り上げた解説本も出ているぐらいに。そして解説にヴァージニア・ウルフの書評が出ているのがこの本の最大の功績か?
マルケス『百年の孤独』が話題だけど、『源氏物語』はさしずめ「千年の孤独」だろうか。だれも幸福になれない物語。匂宮と薫は光源氏のドンファンの姿と政治的な冷暖さをそれぞれ描いているようで、俵万智が情熱的な匂宮に惹かれるというのがそうなのかなと思った。どちらかというと薫タイプかもと考える男子は多いかも。釣った魚に餌を与えない冷酷な男という(俵万智『愛する源氏物語』か二人の和歌についての考察から)。
薫についてはマザコンぎみなのかなと思う。大君(アゲマキ)は中君(コゼゼリ)と姉妹関係だが面倒見のよい母代わりだった。自分自身のことよりもコゼリの将来を考えて失敗する。薫はアゲマキの形代としてコゼリやウキフネを見ていたので、どこか性的に積極的に行けないものがあった(近親相姦的になる)。そこをなんなくクリア出来たのが光源氏なのだが、薫は女三宮の不幸から生まれた子だからそのへんが悲劇性を運命付けられているのか。
光源氏が快楽と権力の獲得でスーパースターだったが、結局紫上も自身も幸福になれなかった。孫たちはその不幸を背負ってしまった。高貴の女たちの行き先が出家しかなかった。ウキフネは田舎娘だから入水したという(出家という道を学ばなかった)。ただそこから俗世間に帰還できたのなら、これからは英雄譚としても期待が持てるのか?キャンベル『千の顔をもつ英雄』 で黄泉から帰還した者は英雄になるという。
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