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漢字は呪術だ!

『漢字百話』白川静

太古の呪術や生活の姿を伝える、漢字の世界。厖大な資料考証によって、文字の原始の姿を確かめ、原義を鮮やかに浮かび上がらせる。「白川静の世界」入門に絶好の、刺激的な書。
目次
1 記号の体系
2 象徴の方法
3 古代の宗教
4 霊の行方
5 字形学の問題
6 字音と字義
7 漢字の歩み
8 文字と思惟
9 国字としての漢字
10 漢字の問題

白川静の漢字の語源について百のトピックということなんだが、それぞれの漢字について書かれてあるのは、正直一度に読むのは飽きてくる。週一とかのコラム的内容だと思うのだが、それとは別に漢字についてのトピックで『万葉集』の山上憶良の万葉仮名はそれまでの万葉集とは違っているので帰化人説があるのだが、それは憶良の表現の文学実験だったという話が面白かった。つまりそれまでは貴族のための表意文字として万葉仮名なんだが「貧窮問答歌」は憶良が独自に愛着のある漢字を使ったという。

漢字は殷の時代に呪術でつかわれた甲骨文字が始まりとされそれは表意文字で漢字の形に意味があったのだが、最初に漢字を分析した漢時代の許慎『説文解字』は部首に注目して分類したが、まだ殷の遺跡が発見する前だったので呪術と関係付けることはなかった。口偏は文字通り人の口の意味だったのだ。しかし、殷の遺跡発掘から甲骨文字による漢字の出現で呪術と関連する文字だというのが白川静の発見だった。彼によると口偏は人の口ではなく神に祈願する骨(甲骨文字)などを入れる入れ物を意味し、動物の骨や人の骨は呪術に持ち入れられて悪霊退散の城壁などに塗り込まれた。道の首は首の死体を意味し、四辻の悪霊退散のために置かれたという。そうした説明が漢字ごとにされるのだが、興味深いのはそのぐらいか。

『万葉集』で日本に漢字が入ってきて表音文字として使われるのが万葉仮名なのだが、まだこの時代は個人によってどの漢字を当てるかは自由度があったようで、表音文字だけど表意文字的な意味も組み込んで人麻呂とかは宮廷詩人らしくそのような漢字を選んだという。

山上憶良『貧窮問答歌』の万葉仮名は人麻呂の歌とは違い、庶民の言葉に合うような漢字が使われたという。日本にはもともと文字による表記はなかったのに、漢字を利用して、さらに漢文まで読んでしまうのだから凄い。大和言葉を仮名文字にするまでは、漢文は重要な教養だった(仮名文字が出来てもそれは女たちが使用する文字で、漢字は真名文字とされた)。


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