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シン・現代詩レッスン83

田村隆一「帰途」

解説で大江健三郎が田村隆一の詩を解説しているのだが。韻文を散文化することに対して詩の読み方としては良くないと言っているのだが、田村隆一の詩を理解する方法であるのだから続けていく。もう作品として投げ出してしまえば読者のもので、作者の意図通りではなくともいいと思うのだ。そういう誤読も含めて詩が広がっていくのは詩のためにもいいことだろう。まあ諌めの言葉として田村隆一の詩もあげておくか?

ウィスキーを水でわるように
言葉で意味でわるわけにはいかない

田村隆一「帰途」

そういうことだ。まあウィスキーの飲み方も人それぞれだと思うが。ハイボールでと言ったら怒られるか?それと解説の詩が本文のほうに掲載されてないので全体かどうかわからなかった。大江健三郎の解説は丁寧なのだが。

帰途

言葉なんておぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか

田村隆一「帰途」

「言葉なんておぼえるんじゃなかった」すごい逆説を言っているのだと思うが、そうして詩を書いているのだから言葉を必要としているのだろう。大江健三郎は意味よりもその最初の口語がもたらすリズムについてそれが成功しているという。「言葉のない世界」を望んでいるのだが、何か痛い経験でもしたのか(田村隆一なら酔っぱらいの失言というのがありそうだ)。もう次のセンテンスなんて無理難題をふっかけているな。それは自分で言葉を発しないでいればいいということにならないか。少なくとも活字化されるところはいかんぜよ。自ら詩人であることを選んだのだから、そんな言い訳は酔っ払いの戯言にしか聞こえない。大江健三郎は言葉が関係性をもたらすものであるから、それをただ観察者のような立場でいられるの赤ん坊か動物であるに過ぎない。そして詩はそのように続く。

鳥の目は邪悪そのもの
彼は観察し批評しない
鳥の舌は邪悪そのもの
彼は嚥下し批評しない

田村隆一「帰途」

批評されるのを恐れているのか?鳥人間になって苦労すればいいと思う。

鳥は飛ぶ
鳥は鳥のなかで飛ぶ

田村隆一「帰途」

当たり前のことを言っているのか?人は言葉を話す。人は人のなかで言葉を話す。でも鳥が全く言葉をしゃべらないのではなく。鳴き方によってコミュニケーションは取っているのだ。

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつは無関係だ

田村隆一「帰途」

むしろ言葉がないほうが復讐されたり、血を流したりするのじゃないのか?それはぼくには無関係だということは出来るけど当事者にならないとも限らない。大江健三郎も詩人が日本語とほんの少し外国語を覚えたのは矛盾すると書いている。そういう人間だったと。詩人は自らを関係づけて生き続けるしかないのであって、涙とか血とかいう幻想の中に縛られていても仕方がないという。しかしこれをユマニストの卑しさ、ヒューマニスティクな詩とはどういうことだろう。こういう弱音がむしろ人間らしいということか。

言葉なんて覚えるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりでかえってく

田村隆一「帰途」

ここはほとんど逆説を言っているな。涙や血を望んでいる詩人だった。大江健三郎は詩と自身の散文化で繋がっていると書く。それは田村隆一自身とは直接は関係ないところで詩の言葉に触媒作用を起こしているだけだと書く。触媒作用は(インスパイアーということか)孤独だという。詩のヒーローはどこに「帰途」するのだろう。大江健三郎は詩人が自殺するようにも想像する(これはわからん)。しかし再び意味の世界に戻って来るという。いったん言葉を覚えたならば蜘蛛の巣のように囚われていく人間だという。世界から無造作に立ち去ることは出来ないのだ。詩人は生き続け言葉を浪費していく。その緊張感に雄々しさを感じるという。そして詩人は埋葬されるために横になることをしないという。

おれは垂直的人間
おれは水平的人間にとどまるわけにはいかない

田村隆一「帰途」

強がりばかり言ってないで横になりたきゃなればいいのだ。それをわざわざ言葉にするから何かを言われてしまうと思う。

沈黙しない言葉

知らず知らずのうちに言葉を覚えていた
それはわたしの味方だけではなく敵からも
敵味方判断するのも言葉なんだろう
避難されれば構えるし、賞められれば自惚れる
それが言葉を使う人間
傷ついたり癒やされたり
それでも言葉が好きだ
だからわからない詩を読んだり
わからない詩を書いたりする
どこかでわかりたいからだ
言葉を知った以上言葉を使いこなしたい
そして疲れたら水平人間になって
再び垂直に立てるようになるまで沈黙することだ

永遠に沈黙することは そこが
もう言葉もいらない世界なのだ

やどかりの詩

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