『源氏物語』のプロトタイプか
『うつほ物語 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』 室城 秀之【編】(角川ソフィア文庫 84 ビギナーズ・クラシックス)
『源氏物語』にも出てきて影響を与えたのではないかというので読んでみる。最初の長編物語で、あて宮の婿選び争奪戦は、『竹取物語』や『源氏物語「玉鬘十帖』に比べても面白い。あて姫は春宮と結ばれるのだが、それを知った男たちの悲喜劇がかなりヤバい。
上野の宮は陰陽師で占ったり、姫略奪を計画した(その身代わりは貧しい娘だったのだが気づかなかったという)。
すでに妻子がありながら仲忠の父で右大将の藤原兼雅は、なんでも手に入れたい権力者で藤原家の摂関政治を現しているのかもしれない。ライバル関係である源涼も争奪戦に参加しているのである。オヤジがそんな所でハメを外している間に仲忠は一宮(あて姫の姉)を得て息子を生む。このへんの関係の複雑さも源氏物語並で系図を見ながらでないと理解できないかもしれない。
春宮に決まった途端悲観して家を燃やしてしまった者もいたとか。
仲忠と涼のライバル関係や政治(藤原氏の摂関政治)の話は確かに『源氏物語』を先取りしていると思う。あて宮がその後に「藤壺」に入って苦労するのも影響があるのかもしれない。
それと同時進行的に秘伝の琴を伝授する奇譚は澁澤龍彦『高丘親王航海記』のような遣唐使船が遭難してハシ国(解説によるとペルシア説があるそうで)にたどり着いてからの旅行記風に始まり、それは『源氏物語』にはないストーリーで面白かった。琴を弾いて天から天女が降りてきて舞を舞うとか。仲忠と涼の演奏は青海波に例えられ、それは『源氏物語』の頭の中将と光源氏の舞に繋がっていく。
『源氏物語』との違いは姫の話よりも琴の継承や政治の話が中心になる。それは男が書いた物語だったからだろうか?『蜻蛉日記』で『うつほ物語』が記されているというから、姪の『更級日記』が『源氏物語』を読んでいることを考えると一世代先に書かれたのかもしれない。その物語を宮中のものが読んで話題になり紫式部が、女達の悲喜劇として『源氏物語』を書いたのかもしれない。