
夜風に香るスパイスカレー(後編)
水野仁輔氏の著書『スパイスカレー』はまるで図鑑のような本です。独自の理論とメソッドによって2187通りものカレーができるという仕組みが語られており、何とも目が眩みそうです。
第1章から第6章を通じてスパイスカレーに関するメソッド、基礎知識、作り方が学べる構成になっています。
第3章の中表紙には、こう書かれていました。
世の中のカレーにはたったの2種類しかない。
メソッドで作るおいしいカレーと
そうじゃないその他のカレーだ。
・・・・・・なぁんてね。
ローランドかと思いました。
『この世には2種類の男しかいない。俺か、俺以外か。』
2択による究極感。そう思うとやはりあの時は一緒に花火に行くか、結婚してインドに行くかの2種類しかなかったのかもしれません。※前編ご参照ください
読み進めていくと、スパイスは『はじめのスパイス』『中心のスパイス』『仕上げのスパイス』に分けられ、それぞれ3回のタイミングで順番に使っていくようです。更には好みの味わいによって組み合わせが変わるので、とても複雑ですが面白さ無限大という感じがします。
本書にはまず基礎となるとても簡単なミニマルチキンカレーを作ってみようという提言がありましたが、見ていくうちにどうしてもエビカレーが作りたくなりました。

エビやろ、と。
次ちゃんと基礎から作る事を心に誓い、エビカレーとミニマルチキンカレーのスパイスを一気に揃えることにしました。
私は材料が書かれたページを写真におさめ、スーパーのスパイス売り場に行きました。
基本的には耳にした事のあるものばかりなので、比較的手早く買い物かごにポイポイと入れる事ができます。
クミンシード、フェンネルシード、ターメリック、ガーリック、ジンジャー、パプリカ、コリアンダー…
カスリメティ?
やだ初耳。
カスリメティ?
秘密結社イルミナティとどのようなご関係で?
エビカレーの『仕上げのスパイス』として記載されているそれは、売り場に見当たりません。さすが秘密結社やなとひとりごちながらAmazonで確認したところすぐさま発見できました。ぜんぜん秘密にしてない。
翌日、ワクワクした気持ちでカスリメティの到着を待っていました。

それは何とも言い難い、これまでの体験に喩えられない不思議な香りがしました。
そうですね、強いて言うなら…そうですね…
草、草かな。説明放棄。
『はじめのスパイス』と『中心のスパイス』も分量を測って準備しました。

並べてみたかった
次に冷蔵庫にあるエビを取り出し必要な分量を計ろうとしたところ、レシピに『エビ/400g』と記載されている事に気がつきました。
家には230gしかありませんので、あと200g程度追加が必要です。
私は急いでスーパーの鮮魚コーナーへ足を運び、“メガ盛り!”とステッカーが貼られたブルネイ産のバナメイエビを手に取りました。
『バナメイエビ 20尾』
まさかの尾数表示。
尾数からgを推測させるとは、なかなかの攻撃力。
ふと横を見ると、小さなむき海老のパックがあり250gと表示されていましたので、私は右手にむきエビ250g、左手にバナメイエビ20尾を持ち、左右の重さの均衡を確かめてみました。
ヒューマノイド天秤によると、まぁ大体おんなじくらいの重さだねと計測されましたので、バナメイエビ20尾を持ち帰りました。
400gありました。
天秤故障中。
準備に手間取りましたがようやく念願のスパイスカレー作りです。
まずは『はじめのスパイス』を油で熱し香りをたたせます。

クミンシードがこんがりとしたら、玉ねぎをざっと炒め、少し水分を加えて蒸した後『イタチ色』になるまで炒めます。
『イタチ色』になったら下準備しておいた野菜ペースト(ネギとセロリのペースト)を入れて水分が飛ぶまで炒めます。


ウサギからイタチへ。
メジロからブリへ。それは違う。
いよいよ『中心のスパイス』投入です。

ファサァ。
一気に複雑なスパイスの香りが広がります。
窓も開けて換気扇も強めにしていますので、隣人の方は私の事をプロの料理人だと思っているに違いありません。もしくはインドの人。
追加の水分と生クリームを入れて煮込んだらほらもうスパイスカレーです。

※前編ご参照ください
エビは別途バターで炒めた後、カレーに投入します。

そしていよいよ『仕上げのスパイス』カスリメティを混ぜ合わせたら完成です。
つけあわせは、紫キャベツのマリネにしました。

いただいてよろしいでしょうか。
私はこれまでお菓子や料理を作り、その都度感想を述べてきました。
“口内オーケストラ” “相性抜群” “素晴らしいハーモニー” “最高のハーモニー”
どのようにおいしいのかを伝えたいのに、毎回拙い表現で同じようなことを書く事しか出来ず、それが叶いませんでした。
しかし今回、カレーを口に入れた瞬間衝撃が走り1つのフレーズが浮かんできました。
“ベートーヴェン 交響曲第9番(歓喜の歌)が脳内に流れるおいしさ”
一周回ってまた伝わってない。
とにかく、べらぼうに、信じられないぐらいおいしかった。
驚きでした。
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