【長崎】梅月堂のシース
「シースひとつ」
通は略して注文する。
フルネームはシースクリーム。梅月堂の看板ケーキだ。
眼鏡橋から歩いて一〇分くらいだろうか、浜の町アーケードのなかに梅月堂本店がある。本店は二階がカフェになっていて、その場でケーキを食べることもできる。
いろんなケーキがショーウィンドーに並んでいるが、シースは別格だ。とにかく飛ぶように売れる。そもそも他のケーキの五倍準備してある。自分が順番待ちをしているとき、ケーキの箱詰めを待っているとき、前後のお客さんが五個とか十個とか買って帰るのをよく見かける。生菓子なのにその量を?と心配になるくらい持ち帰っている。たぶん何かの集まりとかで食べるんだろうけど、そこで「シースを食べましょう」てなるのがイイ。いろいろと生菓子ならではのしがらみを押してでもシースが食べたい。その意気込みを感じる。
シースは生クリームとカスタードクリームが挟まったスポンジケーキだ。
フルーツはシロップに漬けられた桜桃とパイナップル。四角いフォルムに黄色いカラー、飾られたホイップが愛らしい。つやつやにコーティングされたフルーツとホイップ、カスタードは見た目も味もバランスが取れている。ふわふわのスポンジと滑らかなクリームが合わさって、ちょっと酸っぱい桜桃がアクセントだ。
小さい頃から食べてきた味。郷愁もあるが、ケーキそのものがおいしい。
でもきっと、初めて食べる人も懐かしく感じるだろう。
わたしはシースが懐かしい。
すこし遠くの小学校に通っていた私はよく近くの大型量販店で母と待ち合わせをして帰っていた。その大型量販店のなかに梅月堂も店舗を構えていたのだ。
母と帰るとき、ちょっぴりおやつを買ってもらえたりしたのだが、ごく稀に梅月堂にいくことがあった。そしてケーキを買ってもらえた。だけど私はシースを選ばなかった。でも母がよくシースを選んで、それをひとくちもらっていた。それが懐かしい。
今思えば比較的安いから母はシースを選んでいたのかなと思っている。母はいつもちいさいやつとか、安いやつとか選んで、私には気にせず選ばせていた。
大人になってやっとその気遣いに遅れて気付いた。
こんど、シースを買ってきて家族でお茶をしよう。
しばらく実家に帰れないから、次帰るときはそんな家族の楽しみが欲しい。
ふわふわのクリームが口に広がる、イメージはもうできている。
郷愁のシース。初めてのひとも思い出に誘う味はいかが?
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