『らくごDE枝雀』読了
1982年に刊行された桂枝雀さんの著書『らくごDE枝雀』を読みました。この内容が40年前に既に記されていたのかと驚くほど今でも通用する深い深い笑いの考察に溢れていてとても面白かったです。
有名なのは「ドンデン」「謎解き」「へん」「合わせ」という、サゲを4分類した発明ですね。これはネットで検索してもすぐに内容が出てくる程、広く知れ渡っているものです。
驚いたのは、巻末で実際に様々な噺を4つの分類に当てはめているのですが、その数なんと141編ですよ!例として数編あげてみた、というレベルじゃないんです。本当にあらゆる噺を自説で分類してるんです。圧巻ですよね。
あとはこの著書の形式がまた考え尽くされてるんです。枝雀さんの落語の速記が5本、枝雀さんと小佐田定雄さんの対談が4本収録されてるんですが、それぞれ春夏秋冬になぞらえて落語論を展開し、またトーク全編に笑いどころとサゲを盛り込んでるんです。
論理性とサービス精神が圧倒的である。
そういう印象を持ちました。私は落語鑑賞歴がまだ幼稚園児並なので、映像で枝雀さんの高座(中期以降)を初めて観た時に、「この人はどう見ても感覚派の天才だ」と思ったんですよ。けど、全然違うんですよね。実は深い深い論理に裏打ちされた笑いを破天荒に演じて魅せてくれていたのだと。それができるほどの力量を持つ完璧主義者なのだと。
論理性+サービス精神+破天荒…枝雀さんの目指した落語が一体どれだけの高みにあったのか想像もつきません。もっと早く落語に興味を持っていたら、リアルタイムで聴けたかもしれないんですけどね。
最後に、本書で一番好きだと思った箇所を紹介させていただきます。枝雀さんと小佐田さんが新作落語について語っておられる場面です。
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小佐田「それとねわたし以前から思うんですがね、ことに落語という芸は演者による部分が大きいんでね。新作の場合、演者と作者の割合は、九対一くらいやないかと」
枝雀「そんなこともおまへんやろけど……」
小佐田「いえ、この割合でも作者側に有利に言うてるんですよ。ほんま言うたら、作者のネタに占める割合は、それ以下やと思います。けどね、たとえ一割足らずやとしてもね、作者の一割は底の方の一割や。この一割がなけりゃあ、上の九割ものせようがないんやないか。そう考えたら作者いうのも気持のええもんでっせ」
枝雀「そう!(と、ポンと手を打って)いや、その通りです。なんぼ我々が上へのせよ思ても、土台がなけりゃどないもなりまへんからなァ。いや、ええことおっしゃった!」
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落語作家が目指すべきは、丈夫な丈夫な靴の底なのかもしれませぬ。