「映画で世界を変えることはできないけれど、観た人の世界を変えることはできると思う」
レイトショーに足を運ぶのはいつぶりだろう。
先週、テアトル新宿で期間限定上映されていた、大黒友也監督の短編映画「ゴミ屑と花」「ユウジッ!!」を観てきた。
上映前には監督と俳優陣による舞台挨拶があった。
撮影時は映画館で上映される予定のなかったこの作品が、映画祭で賞を受賞し、満員のお客さんの前で今日こうして上映されるまでのいきさつや作品への想い、感謝の言葉を口にする舞台上の方々の表情はみな晴れやかで、眩しかった。
どちらの作品でも「諦めずに進み続ける人を描いた」と大黒監督は語っていた。
「ゴミ屑と花」では、精神的な理由から自衛隊航空パイロットを辞め、ゴミ収集の仕事を始めた男性、「ユウジッ!!」では、元ボクサーであり、現在は俳優として奮闘する男性が主人公だ。
物語の中の彼らは、どうしようもない現実に抗いながらも前を向き、走り続ける。
泥くさく、決して華やかとは言えない現実の中にも、眺める角度を変え、目を凝らしてみれば美しい花が咲く瞬間がある。諦めずに進み続けるからこそ見えてくるものがある。
もちろんこれは、形良く編集された「物語」であって、現実を生きていればもっと救いようのない瞬間にだって山ほど出会う。
だけど、だれもが間違いなく今この瞬間、それぞれの人生の主人公を生きているのだということを、この映画は思い出させてくれる。
「映画で世界を変えることはできないけれど、観た人の世界を変えることはできると思う」
上演後のトークショーでの、大黒監督の言葉が印象的だった。
22時過ぎ、テアトル新宿から駅へ向かう帰り道、横断歩道を渡りながらふいに見上げた街のネオンがあまりにカラフルで眩しくて、心が踊った。
一瞬写真を撮ろうか迷ったけれど、上手く映らないだろうと諦めた。その瞬間の美しさは、わたしだけのものだった。
こんな時間に、一人で都会を歩くのは久しぶりのことだった。なんだか、とても自由な気持ちだった。
年齢を重ねるにつれていろんなものに勝手に縛られていたけれど、本当は、わたしを縛るものなんか何もないのだとふと気づく。
家庭を持ったって、どこに住んだって、どんな仕事をしてたってしわしわのおばあちゃんになったって、わたしの人生の主人公はわたしのままだ。わたしを諦める必要はない。
往路よりわずかに彩度が上がった世界を、軽やかな足取りで歩いた。