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無名夜行 - 三十夜話

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2021年11月に書いた綺想編纂館( @Fictionarys )様主催の三十題。無名夜行の断片記録。
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#小説

Novelber2021/01:鍵

 Xの手首には手錠がかけられている。  独房から出るときに嵌められるらしいそれは、今日も…

青波零也
3年前
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Novelber2021/02:屋上

 今回の『異界』は、酷く狭い場所だといえた。  実際には、ここからずっと遠くまで広がって…

青波零也
3年前
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Novelber2021/03:かぼちゃ

「トリック・オア・トリート」  刑務官に連れられて研究室にやってきたXに、声をかける。す…

青波零也
3年前
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Novelber2021/04:紙飛行機

「魔法では空は飛べないのですか」  Xの問いかけに、少年は眼鏡越しの三白眼を向ける。 「何…

青波零也
3年前
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Novelber2021/05:秋灯

 今日の『潜航』は随分と時間がかかってしまった。Xを『異界』から引き上げた時点で時計を確…

青波零也
3年前
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Novelber2021/06:どんぐり

 スピーカーから流れてくるのは、意外なほどに音程のはっきりとした口笛だった。  曲目は童…

青波零也
3年前
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Novelber2021/07:引き潮

 Xは、目の前に広がる海を眺めていた。  ここまで続いてきた長い長いアスファルトの道は、Xが立っている場所からゆるやかな下り坂になっていて、その先は見事なまでに水没しておりこれ以上進めないということを示していた。  私がXに命じているのは「Xに可能な範囲での『異界』の観測」だ。そして、何を「可能」とするのかはXの自己判断に委ねている。随分曖昧な基準だと思われるかもしれないが、まずは『異界』の情報をXを通して得られなければ話にならず、それには異界潜航サンプルのXが協力的である必

Novelber2021/08:金木犀

 研究室に向かう道すがら、ふと、甘い香りを嗅いだことを思い出す。  この季節になると自然…

青波零也
3年前
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Novelber2021/09:神隠し

「あの子はどこに行ったの?」  一緒にいたのでしょう、という鋭い声がいくつも降ってきて、…

青波零也
3年前
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無名夜行 - 三十夜話/10:水中花

 窓の外、青く広がる世界に、赤い花が群れ咲いていた。  ドレスの裾のような、ひらひらとし…

青波零也
3年前
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無名夜行 - 三十夜話/11:からりと

 昨日まで続いていた大雨が嘘のように、からりと晴れた朝。  けれど、私の気分は最悪だった…

青波零也
3年前
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無名夜行 - 三十夜話/12:坂道

 今回、Xが降り立ったのは、草一本生えていない、殺風景な丘のふもとだった。重たい曇り空の…

青波零也
3年前
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無名夜行 - 三十夜話/13:うろこ雲

 ――『異界』の市場は人でごった返していた。  人といってもそれは『こちら側』でいう「人…

青波零也
3年前
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無名夜行 - 三十夜話/14:裏腹

 時に、Xの言動は私には理解しがたい。  このプロジェクトに異界潜航サンプルとしてXを加えてからそれなりに経つが、総合的に見るならばXは極めて使い勝手のよいサンプルである。こちらの指示を忠実に守った上で、その指示に含まれない部分に関しては臨機応変に対応する。正直、X以外のサンプルでここまで上手く調査が進むかどうか、と言われても私は首を傾げざるを得ない。  その一方で、時々、私はXについて何も知らないのだということを、思い出すことになる。  まさに、今、この瞬間のように。  X