Novelber2021/07:引き潮
Xは、目の前に広がる海を眺めていた。
ここまで続いてきた長い長いアスファルトの道は、Xが立っている場所からゆるやかな下り坂になっていて、その先は見事なまでに水没しておりこれ以上進めないということを示していた。
私がXに命じているのは「Xに可能な範囲での『異界』の観測」だ。そして、何を「可能」とするのかはXの自己判断に委ねている。随分曖昧な基準だと思われるかもしれないが、まずは『異界』の情報をXを通して得られなければ話にならず、それには異界潜航サンプルのXが協力的である必