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青村 音音(アオムラ ネオン)
2019年12月12日 11:42
こんなところにも駅ピアノがある! 札幌雪祭りへの旅道中、新幹線からの乗り換えで新函館北斗駅で降りたった際、構内のグランド・ピアノが目に止まった。「弾いたことある?」と円日が訊いてくる。彼女はグランド・ピアノを言っている。「ないよ」、恐れ多くてそんな異次元には踏み入れない。「弾いた弦が、子宮の奥に響いてくるのよ」「子宮の奥? ぼくにはないからわからない」、マツを経由して任子も同じような
2019年12月9日 13:30
夏が終わり、秋も暮れに向かって急ぎ足になっていた。 年の瀬を迎える間際、公私ともにクソ忙しいのにマツは挙式を終えた足でハネムーンに旅立っていった。そのマツが、頻繁にFacebook に写真とコメントを海外からアップしている。動画もあって、そのひとつを再生してみた。 マツが任子の後姿を追いかけている。コメントが喘ぎ気味なのは、急ぎ足の彼女に追いつかないからだろう。 待てってば、アツコ。 ん
2019年12月6日 14:46
「ひとつ訊きたいんだけど」 王子で会った翌週、大久保のまた違ったベトナム料理店でぼくは粕賀に切り出した。「なんですか、あらたまって」「この前、人の名前だか名称だか、ドン・ジョンソンみたいなこと言ったよな」 粕賀は投じられた石が湖上で波紋を広げるように、知識の探知機でぼくの問いかけの解答を探している。少女が困ったような唇を突き出した仕草で、答えをたどっている。それを無垢と受け取るかあざとい
2019年12月3日 11:18
駅に向かいがてら「もてたのかと思ったよ」と照れ隠しでおどけて言ってみせた。待ち伏せされたとすれば期待もあるという思いが掠めた気の迷い、うっかり口からこぼれ落ちた。「まさかあ、田所さんとは」と粕賀に渋い顔をされた。 冗談のつもりで言ったはずなのに、粕賀の返答に胸がずきんと痛んだ。冗談だったんだよ、そう自分に言い訳をする。あれは、心の隙間が出現させた感情の逢魔が時のせいなんだと。 しばらくは誰
2019年11月26日 15:07
ネットをサーフすると、フジコ・ハミングも辻井信行も、名だたるピアニストの演奏が聴ける。テレビの駅ピアノ、空港ピアノ以外にも、ストリート・ピアノもあれば、ピアノを設置した音楽室を提供する自治体が存在することも知った。 情報網の波で見つけたいちばんの収穫は、YouTubeにはピアノの先生があふれていると知ったことだった。主にアメリカのサイトではネット・レッスンがポピュラーなのか、クラシックからジャ
2019年11月23日 11:28
クライアントへの仕様書提出は、こちら側で仕上げたものに赤字を入れてもらうことで決着した。急ぎの案件もないし、この日も9時前には会社を出られそうだった。 残業が伸びない日は、家でピアノ。つまずいている『イマジン』5小節目が目下、飛び越えるべきハードルになっている。 いっぽう、つまずきの要因も見えてきた。楽譜に書かれた音符が多く、リズムが複雑化すると、音符の音への変換機能がフリーズしてしまうのだ
2019年11月18日 10:45
「これじゃ全然わからない。矛盾だらけだしぃ」 予感は的中し、起爆スイッチが押されていた。クライアントを前に、粕賀が啖呵を切ってしまった。しかも40代後半の管理職にため口である。「ふざけないでくれたまえ」 憤怒の爆煙から顔を突き出した管理職は、頬を紅潮させている。 クライアントはお金も出すが口も出す。多くのクライアントがそうだ。お金は出すが口は出さない神対応のクライアントは今では噂さえ聞く