夜は眠れ スーパーマンと村人A
スーパーマン上司がやってきた。
正義と責任感に満ち溢れている。頭の回転が速く、問題を見つけ出し、次々と正していく。理想と目標を掲げ、組織を束ねてゆく。
掲げられた未来に民衆は沸く。率先して協力し、努力を惜しまない。ともに勝利を経験した者は布教者となり、輝きながら周囲を巻き込んでゆく。
私は村人A。
スーパーマンが求めるしごとのクオリティに応えるべく、村人Aも努力する。しかしスーパーマンが求めているしごとは、スーパーなのである。寝ずに仕上げたレポートに、スーパーマンは小首をかしげる。そして白い歯を見せて言う。
「いったん、これでいこう」
村人Aには聞こえる。
「しょうがない、いったん、これでいこう」
村人Aは非力さを感じ、いっそうの努力を誓う。スーパーマンに貢献できるようにならねばならない。今の能力では追いつかない。かといって、いきなり賢くなったりもしないし、1日は24時間しかない。寝ずの努力が続く。
しかし、何を見せてもスーパーマンの表情は晴れない。村人Aは自分を責める。自らの足りなさを呪う。寝ずの努力は続く。
基本的に、眠りの足りない人間の心はネガティブだ。負の事象を、事実以上に負にとらえる傾向が強くなる。
ある日村人Aは、自分はダメな人間なのだと絶望し、そして、
寝た。
シンプルに眠気が限界の来ていたのである。不甲斐なさも絶望も、すべてを超越してただ眠りに落ちた。
軽く15時間ほどして目覚めた村人Aは悟った。
「何よりも睡眠優先」
ヒトにとって、むしろ動物にとって、睡眠は生きる上で欠かせない活動である。呼吸レベルで省くことのできない活動なのである。
村人Aは、夜が来たら眠ることにした。
村人Aのやることに、スーパーマンはいつも小首をかしげ、ため息をつき、あきれ顔を見せた。
貢献し、成果を上げ、勝利を手にした周囲の人たちは、輝いていた。
それでも村人Aは、よほど以前よりも晴れやかだった。
望む成果が出ないとき、人は言う。本が言う。
やみくもな努力では意味がない。様々なやり方を試してみるべきだ。視点を変えよ。効率を上げよ。まずは論理的思考だ。クリティカルシンキングを身につけよ。誰しも壁を克服したからこそ、成長を勝ち得ている。だから、努力し続けよ。
きっと正論である。
でも、忘れないでほしい。
スーパーマンを笑顔にできなくても、周囲の人のような輝きを放っていないように感じたとしても、あなたには存在価値がある。
努力して望まれる結果が出なくても、それはあなたが無能である、という証明にはならない。「やり方が悪い」という声は8割引きくらいにして聞いておけばいい。
ちゃんと眠って、ごはんを食べて、自分を認めて、生きてください。