市井 仁子 Niko Ichii

エッセイや読書感想文をアップしています。なぜか何事も「生きる」というテーマに帰結させてしまいがちな、ちょっぴりくたびれている市井の人です。

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72歳の野球少年

野球の試合でフライを取り損ねてバランスを崩し、倒れて後頭部を強打。意識不明で救急車で運ばれた。 72歳の父の話だ。母からのメールに、兄妹全員ぎょっとした。 父は「野球少年」である。中高は野球部、会社勤めを始めてからはたまに社会人野球に顔を出す程度になったらしいが、30代後半にはまたバットを振り始め、定年後は「還暦野球」なるものに参加し60歳でルーキーを謳歌。70歳を迎え「古希の部」に仲間入りし、今もなお練習だ試合だと忙しい。 「古希」をインターネットで検索してみると、紫

    • 映画「君たちはどう生きるか」

      この記事は映画「君たちはどう生きるか」の内容に触れています。まだ観ていない方はご注意ください。 ****** 宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」を観た。 物語は唐突に終わり、映画館の電気が点き、現実に放り出された。 駅に向かう道すがらも、解釈に困り頭の中はぐるぐるしていた。 意味がわからないことはたくさんあった。 でも、1日経ち、2日経ち、そのわけのわからない世界こそ、私にとっては重要な要素だと思い至った。 ということで、この記事は、映画の考察でも解説でもなく、ごく

      • 乗り物がもたらす全能の時

        新幹線や飛行機は、必ず窓際の席を予約する。 景色を見るためだ。 乗り物に乗ると、流れる景色を延々と見てしまう。 何も考えていない。 ただ見ている。 でも飽きない。 たまに、電車で座席に膝立ちになって窓の外を見ている子どもがいて、大概、ちゃんと座れせめて靴を脱げと親御さんに怒られているが、わたしは彼らに深く共感する。わたしもそれやりたい。 先日、東京からこだまに乗った。 都会のビル群を抜けて現れる家々、山々。 山あいからのぞく水平線。 田んぼと畦道。草を刈る人。 不自然に

        • 父の気まぐれ門松

          子どもの頃我が家では、正月に立派な一対の門松を玄関に飾っていた。 すっぱりと斜めに切られた太い三本の竹が、堂々と正面を向いて鎮座。高さは小学2年生のわたしが見上げる程に大きかったと記憶している。 そんな立派な門松は、父の手製であった。 田舎だったので、竹は近くの山から調達していた。 父は会社勤めだったが、無いものは買わないでつくれば良いという精神のひとで、家のあちこちにDIYの痕跡があった。 門松の習慣はいつしかなくなってしまったけれど、今でも実家で過ごした正月は堂々と

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          呪いのオーガニッククッキー

          古印体という書体がある。 全体に丸みがあり、線は均一でなく不安定に揺れていて、ところどころ線が途切れている頼りなげな印象の文字である。 奈良から平安時代にかけて作られた印章の文字を模した書体だそうだ。 確かに、印鑑の文字に似ている気がする。 そんな出自を持つ古印体ではあるが、現代において使われるのはもっぱら、ホラー漫画のセリフやホラー映画のポスターなどである。 テレビドラマ「世にも奇妙な物語」のロゴを思い浮かべてほしい。厳密には違うが、あんな感じだ。 それゆえに、どん

          呪いのオーガニッククッキー

          植物を枯らしてしまう人へ

          昔から、わたしの元に来た植物は育たなかった。 小学生の頃に枯らしたサボテンの数は十を超え、 一人暮らしを始め、食用も兼ねて購入したハーブは一週間でぐったりし、そのまま息絶えた。 今度こそと奮発して購入した大きめの観葉植物は、初心者でも育てやすいといわれるパキラだったが、ひと月ともたなかった。 水をやり忘れたことはない。 なのに、枯れる。 植物界では我が家をブラック企業と呼んでるに違いない。 そんなわたしだが、なんと今、鉢植えをふたつ、二年を超えて生きながらえさせている。

          植物を枯らしてしまう人へ

          今日の運勢は自分が決める

          朝起きて出かけるまでの間の出来事で 私は、その日がどんな一日になるかを占っている。 グラスを落としそうになって寸前でキャッチできたり、 家を出て駅に着く前にスマホを忘れたことに気付いたりしたら、 その日はついている日になる。 今日は何か危ないことが起こる、とは思わない。 難を逃れた方を採用する。 開けた扉に頭をぶつけたり、 綿棒の箱を落としを床一面にばら撒いてしまった時は、 今日は厄介なことがいくつか起こる日になる。 ここは認める。 でもこんな日は、急がず焦らず諦める、

          今日の運勢は自分が決める

          今週の号外! 11

          号外! 新しい長靴を買えば快晴で 新しい日傘を買えば土砂降りで。 号外! 雨に濡れた街路樹は、 都会で得難い野生の香り。 号外! 晴れてしまえばなかったことに。 手すりに独り、ビニル傘。 号外! 目の前にそびえるはずの富士山を 隠し切る雲の偉大さに、 想いを馳せるのはいかがでしょうか。 号外! ふとした時に、 遥か昔のあの時の友達の気持ちが降りてきて 行き場のない「ごめん」がまた増える。 号外! またひとつ、歳を重ねてはみたものの メンタリティは20年ほど横ばいです

          「未来のだるまちゃんへ」と、かこさとし展

          今、渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアムでかこさとし展が開催されている。 かこさとしさんは、「からすのパンやさん」や「だるまちゃんとてんぐちゃん」で知られる絵本作家。名前にピンと来なくても、きっと誰もが一度は見たことがあるのではないかと思う。私も、子どもの頃に「からすのパンやさん」を読み、こんがりつやつやに焼けたいろいろな形のパンが並ぶ見開きページに魅了されたひとりだ。 展覧会の開催を知り、お盆休みに行こうと決め、せっかく行くのならと、図書館で見つけたかこさんの

          「未来のだるまちゃんへ」と、かこさとし展

          人生の先輩

          先週末から激痛とともに首を動かせなくなった。 肩こり首こりは慢性的にあったものの尋常ではない痛みに、四十も目前、いよいよヘルニア的な疾患かと病院へ。 しかし、整形外科でレントゲンを撮るも異常なし。 寝違えですと診断され、言葉のライトさと痛みのギャップを飲み込めぬまま、リハビリコーナーにしょんぼり座り電気治療をしていたら、齢八十は超えるであろう小さな小さなお婆様がいらっしゃり、隣の椅子に腰掛けた。 看護師さんの 「痛いのは膝ですね」 の声かけに、 「痛いっつったらもうどこ

          小澤征爾氏著「ボクの音楽武者修行」を読んで

          本書は、小澤征爾さんご本人による、指揮者として身を立て始めた頃の「駆け出し」の記録。 巻末の解説で萩元晴彦さんが「まことに比類のない、みずみずしい青春の書である」と称しているが、本当にその通りだと思う。 第三者が編纂したドキュメントでも、成功者の回顧録でもない。 未来に世界的指揮者なることなどまったく知らぬ青年が、大好きな音楽の世界に飛び込み、出会うもの目に映るものに対して考えたこと思ったこと。人生のかかったここぞという勝負所にどのように臨んだのか。 それらを、「駆け出し

          小澤征爾氏著「ボクの音楽武者修行」を読んで

          今週の、号外!⑩

          号外! 車も人も絶えた夜、点滅する青信号を渡らないのは、それぞれの帰途につきたくないカップル。 号外! 17時なのにもう暗い。寂しさとともに浮かべるのは、秋を飛ばして冬の冷たさ。 号外! 月を仰いでいいことは、神秘の景色と首の体操。 号外! もやっとした事象には、愛着の湧くレッテルを。 号外! 徹夜、やけ食い、寝坊、漫画の一気読み。体力と暇の成せる栄華の日々。 号外! 「若さの特権」がわかるのは、青い苦悩を過ぎてから。 号外! 今の苦悩も、未来の自分の栄華の日々。

          今週の、号外!⑩

          型の凄み。「日日是好日」を読んで

          昔から決められている型にとらわれてはいけない。原理原則を押さえたら、目的に合わせて進化させることが重要である。 そんな考えを根こそぎひっくり返してくれたのが、森下典子氏著「日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ」だ。 著者森下さんは、些細なきっかけでお茶を習い始める。もともとお茶に興味があったわけでもなく、「ただの行儀作法」ととらえていたことが綴られている。 先生である「武田のおばさん」は、厳格に決められているお茶の所作は教えるが、なぜそうしなければいけないの

          型の凄み。「日日是好日」を読んで

          不安なのは知らないから。老化を知る。

          40歳を目前に、頭痛だの肩こりだの、なんらかの体の不調が日々あらわれるようになった。生活習慣もあるだろうが、加齢の影響もあるのだろう。 そのうち、白髪が出てきて、関節が痛くなったり、老眼になったり、ひたすら坂を下り続けるような希望のない日々を生きるのだろうか。 え、お先真っ暗ではないか。 果たして。 何かに対してネガティブになる場合、わからないことや知らないことが原因となっていることが往々にしてある。「知らない」ことに気づかぬまま、負の要素をかき集めて勝手に定義し、否定的に

          不安なのは知らないから。老化を知る。

          自分を許す方法

          誰も傷つけずに生きていけたらいいのに、と思う。 自分の幸運が、誰かの不幸にかもしれない。 主張することで、誰かを否定したくない。 中立でありたい。バランスを取りたい。 しかし、そう思って曖昧な態度を取り続けると、世間では「よくわからない人」と言われてしまう。 そういう時は、世界は左右に揺れながら進む小舟だと思えばいい。 今日右に傾け過ぎてしまったら、明日左に傾ければいい。左に傾く主張があるなら、誰かが右に傾ける余地を残してあげればいい。 まったく揺れずに進む舟はない。

          自分を許す方法

          私たちは常に希望を抱いている

          人は、常に希望を抱いている。 文章にすると使い古された常套句みたいに見えるのだけれど、改めて、真実なんじゃないかと思う。 なぜ人は、物を買うのか。 快適な生活のため。健康のため。家族のため。 なぜ人は、諍いを起こすのか。 相手が間違っていると考えるから。理解してほしいから。負けたくないから。 なぜ子供を叱るのか。 躾のため。常識を身に着けさせるため。人に迷惑をかけないため。 なぜ人は、反省するのか。 二度とみじめな思いをしないため。迷惑をかけた周囲に申し訳ないと思う気持ちか

          私たちは常に希望を抱いている