握手を交わした本
ステージの上で『笑顔』にスポットライトが当たる。とてつもない数の観客はそれにうっとりしている。
次に『夢』と『希望』にスポットライト。観客たちは拳を上げて熱狂し始める。
最後に『感動』が壮大な音楽とともに登場する。観客たちは目頭を抑えたり、すすり泣いたりしている。
そんな中で、戸惑いの表情を浮かべているある一人の観客がいる。その人は疑問に思っている。
「いま笑顔でいなければならないの?」
「夢や希望って何?」
「皆はどこにどういうふうに感動したんだろう?」
「スポットライトを操作している人は誰?」
「隅に何かあるように見えるけど、あれは何?」
「同じような疑問を抱いた人っているのかな?」
「こんなこと考えるのって変ですか?」
その人は長い長い沈黙のあと、人を掻き分け掻き分け、探し始めた。自分と同じように唖然としている人を。この場にわなないている人を。
いったい何人とぶつかっただろう。ステージでは依然としてスポットライトが華やかに舞っている。その強い光があまりにも眩しすぎて目眩がした。もう歩けないかもしれない……。
ふとしたとき、あなたはやってきた。あなたはあなたの傷を少しだけ見せたあとで言葉を置いた。その言葉は、自分の「問い」が「問うていい」ことを教えてくれた。「こんな光もあるよ」と優しく確かな光を見せてくれた。「ちょっと前にこういう人と出会ってね……」と小さなエピソードを教えてくれた。一緒に考えてくれた。心の中でがっちりと固い握手を交わせた気がした。
わたしもあなたも「いる」。たとえ、お互い遠い場所にいたとしても、心の中でならその心のままで握手を交わせる。
ああ、なんという世界だろう。
大切な本。4冊のうちの2冊。あと2冊は、今はまだ心の中に。