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掌編小説 | 雨を聴き、穴を覗く | シロクマ文芸部
⚠一部の方には、非常にわかりづらいオチとなっております。申し訳ございません🙇♀️
「雨を聴く!」
と言われて、何事かと背筋を伸ばした。
「あー、ちょっと。顎、離さないで」
女性は苛立った様子で僕を睨んだ。
「ああ、すみません。〝雨を聴く〟ってなにかなって。気になっちゃって」
女性はもう何も言わない。
僕も無言で、カサカサした紙の上に顎を置いて、大人しく穴の中を覗いた。
覗き込んだその世界は、今日もよく晴れていた。
真っ直ぐな一本道。僕にとっては見慣れた景色だ。
カラフルな気球は、青空に映えて美しい。
なぜ先ほど女性は「雨を聴く」などと言ったのだろう。ほとんど雲のない快晴だ。しかし、もしかすると雨というのは、僕が知らないだけで、晴れた日でもしたたかに音を響かせているものなのかもしれない。
目に見えているものがすべてではない、と彼女は言いたかったのだろうか。
僕は女性が放った言葉の真意を確かめたかったが、今は動くことを許されない。
「雨を聴く!」
再び女性がそう言った直後、ものすごい風圧を目の玉に受けた。瞬時に目が乾き、思わず瞼を閉じてしまったが、案外それは〝うまくいった〟証拠なのだ。
僕と女性を隔てている機械が真横にスライドしていく。その一瞬、僕は彼女の顔を盗み見た。なんとも厳しい表情をしていた。しかし怒っているわけではない。彼女は、とても勤勉なのだ。
再び白い紙の束に顎を乗せた僕は、もう一つの目で穴を覗き込んだ。もう一つの目、というのは、心の目とかそういうのじゃない。右の目があったとしたら、もう一つの目というのは左目のことだ。そうでないと意味がないのだ。
再び覗いたその世界は、先ほどと何一つ変わらなかった。しかし、その一本道の先に僕はある変化を感じた。
一台の車を見つけたのだ。こんなことってあるだろうか。
年に二回は、この代わり映えのない景色を見てきた僕が、今初めて対向車を見つけたのだ。
「あ、あの。車なんて走ってましたっけ」
驚いた僕が、穴から顔を離し質問をしたので、女性も仕方なく顔を上げた。
そのときの彼女の顔があまりにも怒っていたから、僕は目を見開いてしまった。
「初めからそのくらい開けときなさいよ! やりづらいんだ、あんたの目。はい、目大きく!」
「は、はい!」
僕は可能な限り目を見開いて穴を覗く。もっと! と女性が叫ぶ。
「はい、目大きく!」
「ええっ、これ限界ですよ」
気球の右下を走る車を凝視する。やっぱり。対向車がいたんだ。
僕は再び驚き、目を見開いた。
直後、眼球を射る風圧。
満足して笑う女性。
「はいおしまい。次、視力検査ね」
[完]
よろしくお願いします°・*:.。.☆